[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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地震のとき家具はどのように倒れる? ~地震に備えて正しく固定しよう~

(2022年9月01日)

平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震により 転倒したオフィス家具の様子

 9月1日は「防災の日」、9月1日をふくむ1週間は「防災週間」です。「防災の日」、「防災週間」は、約100年前の大正12年(1923年)9月1日に関東地震(関東大震災)が発生したこと、古くからこの時期に災害になるような台風が日本に上陸してきたことから、過去の災害を忘れないように定められました。

 地震のゆれを感じたり、緊急地震速報を受けたりした時、自分の身を守る行動の基本は、まず【危ないものから離れる】、その次に【身をかがめてじっとする】です。ここで【危ないもの】とは、「倒れてくるモノ」、「落ちてくるモノ」、「動くモノ」です。あわてずに周りをよく見てこれらから離れます。地震のゆれは非常に速いため、急いで身をかがめてしまいそうですが、家具などは、地震のゆれ始めと同時に倒れてくるわけではありません。落ち着いて安全な場所に移動しましょう。

 そして、【身をかがめ】ます。どうしてかというと、非常に大きな地震のゆれで、自分自身が転んで頭などにケガを負うことを防ぐためです。

 

地震時の家具転倒メカニズム

 家具は、地震の発生とともにたちまち倒れることはないと書きましたが、家具転倒防止は、家庭などでの地震防災の基本であり、金具を用いて家具を建物に直接固定することが最も効果的です。しかし、賃貸住宅だったり、今後模様替えをしたかったりなど、家具を建物に直接固定できない場合があります。そのような場合や手軽な対策として、つっぱり棒タイプの転倒防止器具が多くを用いられていますが、その設置方法が誤っていることがたびたびあります。地震の時、家具はどのように転倒するのかのメカニズムを理解していると、適切な設置方法を考えることができます。

つっぱり棒タイプの転倒防止器具の設置方法

 家具は、通常時、その重さが家具の真下に働いており、床に支えられて安定しています。地震時、家具は前後にゆすられますが、背面には壁があるため、床面に接している前側端部が支点となり、前に回転しようとします。そして、家具の重心が支点より前に来ると倒れます。

 この時の家具上面の一番奥の動きに注目すると、この部分は必ず上に移動します。つっぱり棒タイプの転倒防止器具はこの動きを止めることで、家具を転倒させない仕組みです。誤った設置をしている人の多くは、「つっぱり棒で家具の振動をおさえるのだから、設置場所はどこでも同じ」と考えていて、家具転倒のメカニズムを踏まえた設置位置となっていません。特に、つっぱり棒が家具の前側に設置されている場合、家具転倒メカニズムからも分かるように、家具がゆすられると家具の上面前側は下がるため、簡単に外れてしまいます。

 

床に設置するタイプの転倒防止器具

 また、地震による家具の転倒時には、重心が前に移動する特性に着目した転倒防止器具もあります。右に示した転倒防止器具は、床に設置するタイプで、家具の前面を少し持ち上げることで、最初から家具が壁によりかかった状態になっています。これにより、重心が支点より前に来ることを防ぎます。つっぱり棒タイプとあわせて用いることで、より高い転倒防止効果が期待できます。

 しかし、家具などに転倒防止を施したからといって地震時に絶対に倒れてこないわけではありません。東北地方太平洋沖地震のように地震のゆれが長時間続いた場合や熊本地震のように大きなゆれが繰り返し発生した場合など、器具の固定がゆるみ家具が転倒したケースがあります。

 家具の転倒防止は、【危ないものから離れる】ための時間を確保してくれるものと考え、地震が発生した時には速やかに家具から離れるようにしましょう。

 

長屋 和宏(ながや かずひろ)
国土交通省 国土技術政策総合研究所(国総研) 道路地震防災研究室 主任研究官
(つくば科学教育マイスター)
私たちの生活を支える道路や橋などの土木インフラの大切さを知ってもらうために、出前講座などを通じて国総研の活動を分かりやすく発信しています。
特に防災分野では、小中学生の皆さんと一緒に、さまざまな視点で勉強しています。