[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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わかる科学

地震の時、人間とモグラ、どちらがこわい思いをしている?

(2017年9月15日)

 地震が発生すると、それぞれの地点のゆれの大きさを表わす「震度」が気象庁より発表されます。気象庁が発表する「震度」は、地表面のゆれの大きさを表した値です。

 しかし、「震度」だけでは、建物や橋、地面の中(地下)がどのくらいの大きさで、どの様にゆれたのかは、分かりません。

【ここでクイズ】
 いつもは地面の上(地上)で生活をしている人間と地下に巣があるモグラとでは、どちらが地震の時に大きなゆれを受けているのでしょう?
 下の図は、平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の時に、神奈川県小田原市で測った記録です。
 この場所では、地表面(地表からの深さ2m:ほとんど地表面と同じ)だけではなく、地表からの深さ20m、50mという、地下のとても深い場所に機械を置いて、地震のゆれを測っていました。
 さて、答えは・・・・。下の図を見てください。

 ここでは、地震の水平方向のゆれを加速度(cm/s2)という値で示します。加速度は、震度と同じように地点のゆれの大きさを表すものですが、震度よりもう少しゆれ方を科学的に表しています。
 なお、地震は上下方向にもゆれますが、これまでに測った地震の記録から、建物や橋などをこわしてしまう地震のゆれは、上下方向のものより水平方向の方が大きいことが分かっています。このため、建物や橋をつくるときには、水平方向の地震のゆれに特に注目します。
 このことから、水平方向のゆれの大きさで説明します。

 それぞれの記録の最大値は、地表面では124.3 cm/s2、地下20mでは82.6cm/s2、地下50mでは52.8cm/s2、でした。この結果から、地下より地上の方が大きくゆれていることが分かります。
(ただし、実際のモグラの巣は地下20cm程度なので、ほぼ人間と同じゆれを感じていることになります。)

 どうしてでしょうか?
 この絵をよく見ると、ビルが地震により左右(水平)に大きくゆすられています。これは建物に地震のゆれが伝わる際に、建物が変形するためです。(これを「地震動の増幅(ぞうふく)」と言います。)
 地震の時、地面の中でも同じことが起こっています。地震のゆれが地下深くから地上に伝わってくる際に地面の中の土が変形し、上(地上)に行くに従って地震動の増幅が起こり、大きなゆれとなります。
 このため、土が変形しやすい地面がやわらかい土地では、地震動の増幅が大きくなり、より大きな地震のゆれになります。

 それでは、建物だけではなく、橋などは、地震の時にどの様にゆれるのでしょうか?
 下の図は、岩手県山田町にある橋で、先ほどと同じ東北地方太平洋沖地震で測った記録です。

 この記録を先ほどと同じように、水平方向のゆれを加速度の最大値で比べてみると、地表面では274cm/s2、橋の柱(橋きゃく)の一番上では459cm/s2、となっており、最初の図の建物と同じように橋も上の方が大きくゆれていることが分かります。

 最後に、どうして、橋や地下の地震のゆれを測っているのでしょうか?
 それは、地震の時に橋はどの様にゆれているのか、地面の中ではどの様にゆれているか、を正確に知るためです。
 地震の時の橋の正確なゆれを知ることが出来れば、より大きな地震にたえられる強い橋を作ったり、同じ強さでも安い費用で橋をつくったりすることができます。
 また、これからは地下深くに大きな構造物を作っていくことが考えられます。せっかく作ったものが地震でこわれてしまわないようにするため、地下での地震のゆれはどのくらいなのかを正確に知る必要があります。
 そのため、いろいろな場所で地震のゆれを測っています。

長屋 和宏(ながや かずひろ)
 国土交通省 国土技術政策総合研究所(国総研) 企画部 主任研究官(つくば科学教育マイスター)
私たちの生活を支える橋などの土木インフラの大切さを知ってもらうために、出前講座などを通じて国総研の活動を分かりやすく発信しています。
特に防災分野では、小中学生の皆さんと一緒に、様々な視点で勉強しています。