大きな脳をもつ動物ほど、あくびが長くなる!?
(2021年6月01日)
あくびは退屈のしるしではなく、むしろ脳の大きさの指標となりそうです。ユトレヒト大学(オランダ)やニューヨーク州立工科大学(アメリカ)を中心とした国際的な研究グループは、101種の哺乳類と鳥類を対象とした研究から、大きな脳をもつ動物ほど、あくびの持続時間が長くなることを発見しました。この研究成果は『Communications Biology』誌に掲載されています。
私たちは1日に何回もあくびをします。あくびをするのはヒトだけではなく、脊椎動物で広く報告されています。当たり前のような行動ですが、あくびには多くの謎が残されていて、今も議論が続いています。
あくびの働きについて、いくつもの仮説が提唱されています。それらの仮説の中には、あくびは血中の酸素量を増加させるために機能しているという、今も人気の仮説が含まれていますが、これは30年以上前に否定されています。というのも、酸素や二酸化炭素の濃度が変化してもあくびは変化せず、呼吸数が2倍になるほどの運動をしてもあくびには影響しないことなどが、すでに証明されているのです。
現在、あくびの原因として最も支持されているのが、脳冷却仮説です。これは、あくびをするときの長時間の筋収縮と深い吸気が、脳の血液の温度を下げる、つまりあくびには脳を冷却する働きがあるという仮説です。この仮説に従えば、脳が大きいほど、あくびが長くなると予想されます。この予想は、実際にいくつかの哺乳類で実験的に確かめられていて、仮説が支持される結果となっています。しかし、網羅的な研究はなされていませんでした。
そこで研究グループは、これまでで最大規模のあくび研究を行いました。101種(哺乳類55種、鳥類46種)、697個体(哺乳類426種、鳥類271種)について、合計1291回のあくび(哺乳類622回、鳥類669回)の持続時間を分析したのです。これらのデータは動物園で飼育されている動物を撮影して集められました。
解析の結果、あくびの持続時間と、脳の質量、脳の全ニューロン数、皮質のニューロン数の間には、強い正の相関関係があることが明らかになったのです。つまり大きな脳をもつ動物ほど、あくびの持続時間が長くなることが、哺乳類と鳥類で網羅的に調べられて、明らかにされたわけです。これらの発見は脳冷却仮説を支持し、そして、あくびが種を超えて広く保存された行動であることを示しています。
今回の研究では、哺乳類のほうが鳥類よりもあくびの持続時間が長いこともわかりました。また哺乳類の中で、ハダカデバネズミだけは脳の大きさに比べて、あくびの持続時間が長いこともわかりました。これらの現象を詳しく調べれば、あくびの生物学的な意義について、さらに理解が深まると考えられます。
【参考文献】
・Brain size and neuron numbers drive differences in yawn duration across mammals and birds.
保谷彰彦
文筆家、サイエンスライター。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。専門はタンポポの進化や生態。著書に『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(あかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)、『身近な草花「雑草」のヒミツ』(誠文堂新光社)など。中学校「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」が掲載中。
http://www.hoyatanpopo.com