小惑星リュウグウの砂粒に塩の結晶が見つかった意味とは?
(2024年12月15日)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウで砂粒を採取し、2020年に地球に持ち帰ったことは広く知られているでしょう。地球に落下した後に発見された隕石では見られない未知の物質が発見されるのではないか……と期待され、現在、その分析が進められています。そして、この程、京都大学、東北大学、JAXA、放射光利用研究基盤センター(JASRI)、分子科学研究所(IMS)、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の研究グループは、リュウグウの砂粒の中に塩の結晶を発見したと発表しました。
リュウグウから持ち帰っても、地球の物質が混ざるようなことがあっては、正確な分析はできなくなります。研究グループはリュウグウの砂を慎重に扱い、地球の大気にまったく触れていない状態を保ちながら、光学顕微鏡や電子顕微鏡で観察したところ、砂の表面に小さな白い鉱脈があることを発見。より詳しく分析した結果、ナトリウム炭酸塩や岩塩(塩化ナトリウム)の結晶や、ナトリウム硫酸塩が含まれていることが明らかになりました(図1)。
リュウグウは870mほどの小さな天体ですが、太陽系が形成されて間もない約45億年前に存在した数十kmの母天体(ぼてんたい)から何らかの原因で分離したと推定されています。現在のリュウグウには液体は見られず、地球に持ち帰られた砂粒も濡(ぬ)れてはいませんでしたが、母天体の表面は水で満たされており、内部の放射性元素が発する熱によってお湯になっていたと考えられています。
しかし、母天体を満たしていた水がどのように失われていたのかは分かっていませんでした。今回、発見された塩類はいずれも水に溶けやすく、母天体の水に溶けていたと思われるものの、液体が極めて少なく、塩分の濃度が高くなければ結晶化することはありません。そこで研究グループは、今回の塩の発見を受け、母天体を満たす水の中で塩を含む鉱物が沈殿し、その後、蒸発、もしくは凍結という水が失われる出来事が起こり、塩類が結晶化し、リュウグウにもたらされたと考えています(図2)。
塩類の存在は、太陽系の他の天体でも確認されており、火星と木星の間にある小惑星帯に位置する準惑星のセレス、木星の衛星エウロパ、土星の衛星エンセラダスといった地下に海が広がっているとされる天体にも塩類があることが明らかになっています。そのためリュウグウの砂粒で発見された塩の結晶は、他の海洋天体の水環境と比較する上で重要な手掛かりになると期待されています。
【参考】
■京都大学プレスリリース
・小惑星リュウグウの砂つぶに発見された塩の結晶―太陽系の海洋天体とのつながりを知る新たな手がかり―
■論文
・Sodium carbonates on Ryugu as evidence of highly saline water in the outer Solar System
斉藤 勝司(さいとう かつじ)
サイエンスライター。大阪府出身。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。最先端科学技術、次世代医療、環境問題などを取材し、科学雑誌を中心に紹介している。