手触り感をシェアできる触感デジタルデザインツール
(2022年8月15日)
あらゆる分野のデジタル化が国を挙げて進められています。また、ここ数年のコロナ禍によってオンラインでの仕事も増えてきました。
しかし、仕事の多くをデジタル化しようとすると、テキストや図表でのコミュニケーションだけでは十分ではありません。そこで、実際のモノの感触といった、アナログ的な情報を伝える技術が注目されています。
広島大学大学院 先進理工系科学研究科の栗田 雄一 教授らの研究グループは、手でモノに触れたときの触感を数値化して再現できるアルゴリズムを開発しました。
工業製品をデザインするときには、その製品を持ったときの肌触りや手触り感の評価が必要です。しかし、このような感覚的な情報には客観的な指標がないため、商品開発の際、視覚的デザインの場合のように詳細に検討できないところが課題でした。
触感を定量的に示す評価技術はこれまでもありましたが、まず試作品を作り、それを人が指で触ったときの反応を測定するというものがほとんどでした。実際にモノの形になったサンプルが必要なので、商品企画の段階で時間とコストがかさんでしまいます。
そこで、研究グループは、触感をデジタルデータとして評価するためのアルゴリズムを開発しました。
触感データを得るために、テクスチャの高さ情報をハイトマップ画像に組み込み、他の人が製品に触った時の触感を予測できるアルゴリズムです。ハイトマップ画像とは、テクスチャの三次元情報の一つである高さを含んだ情報で、表面の微妙な凹凸感を数値化してシェアできるものです。
研究グループでは、さまざまなテクスチャパターンをウレタン樹脂で造形したサンプルで再現し、それを被験者に触ってもらい、被験者が感じた「粗さ感・凹凸感・滑り感」などを聞き取ることで、触感データベースを構築しました。こうして得られたさまざまなテクスチャパターンをハイトマップで表現し、特徴量を機械学習で推定することで、高い精度で感触をシェアできることを確認しました。
また(株)アプリクラフトという企業と連携し、CADソフトで作成したオブジェクトの表面のテクスチャを指定してハイトマップ画像を生成するアルゴリズムも開発しました。
この技術によって、CADソフトで作成したオブジェクトデータから実際の試作品を作ることなく、触感を正確に予測し情報をシェアすることが可能になるのです。
この技術が製品づくりに活かされていくことで、手に持ったときの感触が心地よく、人に優しく使いやすいデザインの道具が普及していくことでしょう。
【参考】
・プレスリリース デジタルオブジェクトの表面触感を予測・数値化できる触感デジタルデザイン支援ツールを公開(広島大学)
・ハイトマップデータから触感を予測する触感デジタルデザインツール
サイエンスライター・白鳥 敬 (しらとり けい)
1953年生まれ。科学技術分野のライター。月刊「子供の科学」等に毎号執筆。
科学者と文系の普通の人たちをつなぐ仕事をしたいと考えています。