[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

わかる科学

最新の地球観測衛星「はくりゅう」が梅雨前線の雲の内部を宇宙からとらえた

(2024年8月01日)

 災害や異常気象から私たちの社会を守るため、より正確な気象の観測・予報技術が求められています。現在、数多くの地上観測地点の他、宇宙からは気象衛星「ひまわり」が、気象観測を行っていますが、気象衛星からの観測では雲の内部の3次元データを得ることができません。航空機や地上レーダーからは観測できますが、航空機はいつも飛行できるわけではなく、地上のレーダーは観測場所が限られています。地球上をくまなく観測し、全球の気象データを取得するためには衛星からの観測が欠かせません。

 

 今年5月29日、「アースケア(EarthCARE)」と呼ばれる衛星がアメリカのスペースX社のロケットによって打ち上げられました。この衛星は宇宙航空研究開発機構(JAXA)・情報通信研究機構(NICT)が欧州宇宙機関(ESA)と共同で開発したもので、日本名は「はくりゅう」といいます。同衛星は「雲エアロゾル放射ミッション」を目的としたもので、搭載する4種類のセンサー(雲プロファイリングレーダー、大気ライダー、多波長イメジャー、広帯域放射収支計)で大気中の雲やエアロゾルといった微粒子の観測を行います。雲やエアロゾルは太陽光線を遮ったり、地球温暖化をもたらすなど、地球全体の熱収支に大きな影響を与えています。この衛星によって地球全体の熱収支が詳しくわかるようになり、気候変動や異常気象の予測がより詳しくできるようになります。

 

 雲プロファイリングレーダー(CPR、Cloud Profiling Radar)は、94GHz帯という非常に高い周波数の電波を用いたドップラーレーダーで、JAXAとNICTが共同開発しました。

 現在、同衛星は初期段階の機能確認運用中ですが、6月13日の初観測では、日本列島の東にある梅雨前線上の発達した雲を観測し、雲の断面を可視化、及びドップラー計測(電波の波長が、近づくときは短く、遠ざかるときは長くなる現象)によって雲の内部の粒子の上下の動きを捉えることに成功しました。

 CPRは梅雨前線を横切って、距離約500kmに渡って、高さ約13kmまでの断面画像を取得、世界で初めて宇宙から雲の内部のようすをとらえることに成功しました。図1の左の図は、レーダー波の反射強度から雲の密度の大きさを、右図はドップラー計測から粒子の動きを示したものです。地上付近から高度10km近くまで雲が発達し、その下5km以下では下向きの動き、つまり降水があることがわかります。

 まだ初期段階の運用のため、詳細な観測はこれからが本番ですが、CPRによる観測データから、雲内部の鉛直方向の断面におけるエアロゾルの上下運動を調べることができ、雲が気候変動に与える影響の解明や天気予報の精度向上に役立ちます。

 

図1. CPRのレーダ反射強度(左)とドップラー速度(右)の高さ分布を3次元的に示した図。雲の水平方向の分布は、気象衛星「ひまわり9号」データを利用している。ひまわり9号のデータは気象庁から提供されたもの。
©JAXA/NICT/ESA
図2. 観測した場所は日本の東方。梅雨前線を横切るような方向でデータを取得している。 右図は気象庁「天気図」( https://www.jma.go.jp/bosai/weather_map/ 外部リンク )を加工して作成されたもの。
©JAXA/気象庁

 

 

■宇宙航空研究開発機構プレスリリース
雲エアロゾル放射ミッション「EarthCARE」衛星(はくりゅう)搭載 雲プロファイリングレーダ(CPR)の初観測画像を公開 ~世界初、宇宙から雲の上下の動きを測定~

 

サイエンスライター・白鳥 敬(しらとり けい)
1953年生まれ。科学技術分野のライター。月刊「子供の科学」等に毎号執筆。
科学者と文系の普通の人たちをつなぐ仕事をしたいと考えています。