月面で得られる材料から建材を製造する技術を開発
(2025年1月15日)
現在、アメリカ航空宇宙局(NASA)を中心に、有人月面探査を実現する「アルテミス計画」が進められており、2040年頃には数百人から1,000人が月面に滞在し、様々な探査活動に取り組むようになると想定されています。
ただし、これだけの多くの人間が生活できるインフラを整備しようとすると、大量の建材が必要ですが、そのすべてを地球から運ぶことはコスト的に不可能です。そこで名古屋工業大学生命・応用科学類/先端セラミックス研究センターの研究グループは、月面を覆うレゴリスと呼ばれる細かな砂礫(されき)を原料に建材を製造する技術の開発を進めています。
月面で建材を製造する手法として、これまで「①化学反応で固化させる手法」、「②圧縮して押し固める手法」、「③加熱して焼き固める・溶かす手法」が提案されてきました。特に③は月では稀少な水などが必要ないことから有望視されており、20年以上前から電磁波の一種のマイクロ波で加熱して、レゴリスから建材を製造する技術の研究が進められていました。
しかし、この手法では温度制御が困難になる熱暴走の発生が大きな課題になっていました。レゴリスに含まれるケイ酸塩化合物が融解し、冷えて固まる際に緻密なガラス構造になるのであれば問題ないのですが、ケイ酸塩化合物がガスとなって抜けると、内部に微細な空隙ができる多孔質(たこうしつ)構造となって強度が著しく低下してしまいます(写真)。
名古屋工業大学の研究グループは最適な加熱方法を見出すため、様々な条件の下、レゴリスに似せて作られた模擬砂を加熱し、どのように変化するかを詳しく調べました。その結果、周囲に大気がある条件では、加熱処理後、強く掴むと崩れるほど脆くなったのに対して、高真空条件では同じ処理温度でも緻密な構造物が得られました。また、加熱温度をより上昇させると、わずか50℃の違いでも得られる構造物の質が大きく変化するといった情報も得られました。
こうした情報を踏まえ、研究グループは従来の一段階で加熱するのではなく、多段階で加熱する手法(多段階加熱制御)を考案し、模擬砂から世界最高レベルの圧縮強度を持つ建材を製造することに成功しました(図)。この技術を活用すれば、月面でレゴリスを材料に建材を製造することが期待されますが、最大で1,000人が滞在するインフラを整備するには大量の建材が求められることから、研究グループは、今後、レゴリスを材料に建材を大量生産する技術の開発に取り組む予定です。
【参考】
■名古屋工業大学プレスリリース
月面インフラ構築に向けた世界最高強度を有する建材製造技術を開発
■Scientific Reportsの論文
斉藤 勝司(さいとう かつじ)
サイエンスライター。大阪府出身。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。最先端科学技術、次世代医療、環境問題などを取材し、科学雑誌を中心に紹介している。