果肉ではなく種子を食用にしていた!! 6,000年前のリビア産スイカ
(2022年9月15日)
エジプトでは、今から4,360年前までにスイカの果肉がデザートとして食べられていたことが、古代の絵画に証拠として残されています。それ以前のスイカにまつわる証拠としては、リビアの新石器時代のウアン・ムフギアグ遺跡から約6,000年前のスイカ種子が出土しています。しかし、そのスイカが甘い果肉を持つスイカだったのかは不明でした。じつは、スイカの原産地はアフリカとされる一方で、栽培化により甘い果肉のスイカがいつ、どこで誕生したのかは、まだわかっていないのです。
このほど、シェフィールド大学(イギリス)やミュンヘン大学(ドイツ)などの国際研究チームは、約6,000年前には、スイカの果肉ではなく、種子が食用にされていたことを明らかにしました。
この研究では、(1)リビアの6,000年前のスイカ種子と、スーダンの3,300年前の別のスイカの種子、(2)1824年から2019年までに、世界各地から広く集められて、植物園に収蔵されている標本、そして(3)現代の全ての栽培種などから、さまざまなスイカ類のDNAの塩基配列が決定され、合計で131ものスイカと、その近縁種の遺伝情報が詳しく調べられました。
その結果、6,000年前のリビア産スイカについて、多くのことがわかりました。まずこの6,000年前のスイカは、種子を食用にするスイカの一種(Citrullus mucospermus)と遺伝的に近いことが明らかになりました。この種子用スイカの特徴は、果肉が苦いのに対して、種子には脂肪が多く含まれることで、現在、西アフリカのガーナ、ベナン、ナイジェリアで種子が食用に利用されています。
次に、遺伝情報をもとにして、果肉の色や苦味を決める遺伝子についても調べられました。すると、6,000年前のスイカは果肉が白っぽくて苦いと推定されました。こうしたことから、6,000年前のスイカは果肉ではなく、栄養価の高い種子が食用に利用されていた可能性が高いと考えられたのです。
また、コンピュータ断層撮影(CT)を使った研究により、6,000年前のスイカ種子には、人がかじったと推測される痕も見つかりました。これにより、種子が食料となっていた可能性がさらに高まりました。
現時点では、6,000年前のスイカが栽培されていたのか、それともウアン・ムフギアグ遺跡の周辺に自生していたのかは不明です。しかし、太古の昔、スイカは種子を食用にするために、採集または栽培されていたと考えられます。
スイカの野生種にも、栽培種にも、美味しくて油分の多い種子がたくさん入っています。果肉と違って、種子には苦味成分のククルビタシン類が含まれていないため、簡単に手に入り、苦味がなく、栄養価の高いスイカ種子は、食用に適していたと研究グループでは考えています。どうやら、甘くて瑞々しい果肉のスイカが栽培化されるまでは、種子が食用にされていたようです。
【参考】
・Pérez-Escobar O.A. et al. (2022) Genome Sequencing of up to 6,000-Year-Old Citrullus Seeds Reveals Use of a Bitter-Fleshed Species Prior to Watermelon Domestication. Molecular Biology and Evolution. 39(8): msac168.
https://doi.org/10.1093/molbev/msac168
保谷彰彦
文筆家。植物学者。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。専門は植物の進化や生態。主な著書に新刊『生きもの毛事典』(文一総合出版)、『ヤバすぎ!!! 有毒植物・危険植物図鑑』『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(共にあかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)、『身近な草花「雑草」のヒミツ』(誠文堂新光社)。中学校教科書「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」掲載中。