水金地火木・・・ ~400℃の世界へ~
(2017年10月15日)
小中学生の時に、太陽系の惑星の順番を覚えるときに何度も唱えた「水金地火木・・・」この言葉の最初にくる「水=水星」が次の目標だ。
地球から見た3倍もの大きさに見える太陽から、地球で受ける約10倍ものエネルギーを受けて、そこにある物の温度が400℃にもなる灼熱の世界へむけた新たな挑戦が始まる。
ESA(ヨーロッパの宇宙機関)とJAXAの共同ミッション「BepiColombo」(ベピ・コロンボ:ス イングバイを多数回利用した水星探査を立案したイタリアの天文学者の名前)計画だ。
ベピ・コロンボは4つのモジュールを合体させて太陽系のもっとも内側の惑星“水星”まで飛行する。各モジュールは水星軌道への投入以後に分離される。(画像参照)
大きな太陽電池を展開するMTMは強力なイオンエンジンとスイングバイを用いて水星に二つの探査機を届けるのが仕事。MPOは比較的低高度を周回して水星表面を観測するESAの探査機。サンシールドは水星までの道中、衛星を熱から守る“盾”の役目を果たすもの。
MMO(水星磁気圏探査機、Mercury Magnetospheric Orbiterの略称)は、JAXA宇宙科学研究所が担当する比較的高い高度を周回して、主に水星の磁気圏を観測する衛星だ。
2018年10月、南米ギアナのESAのクールー打ち上げ場からアリアン5という大型ロケットで打ち上げ、7年以上の月日を経た2025年12月水星に到着する。こんなに長い時間を要するのは地球(1回:スイングバイの回数)、金星(2回)、水星(6回)で何度もスイングバイしてようやく水星周回軌道に投入されるからだ。
水星は質量が小さく、かつ太陽に近いので公転速度がとても速い。その周回軌道に入るためには膨大なエネルギーが必要である。そこでMTMの強力なイオンエンジンを使いながら軌道を変更しつつ計9回のスイングバイで、水星との相対的な速度を落としたうえで周回軌道に投入する。7年という長い時間はそのために必要なものだ。
水星到着後に、MMOはいちばん低いところで高度590km、高いところで高度11600kmを約9時間で周回する長楕円軌道に投入される。
MMOは対角の長さ1.8mの8角柱型、高さはアンテナを含めて2.4m、重さは約280kg、ほかの探査機と相乗りで行くためにかなり軽量化されている。最近は姿勢を宇宙空間で固定化する三軸制御が多いが、MMOは長く伸ばしたアンテナやマストの先に置かれた磁力計で水星周辺の磁場を三次元で計測するため、1分間に15回転するスピンを用いた“スピン姿勢安定方式”を採用している。
同じような地球型の惑星である金星や火星には存在しない磁場がなぜ小さな水星にあるのか?MMOの周回観測によって、水星の磁場、磁気圏の様子が明らかになると、内部の溶けた核の様子や、内部の特異な姿が垣間見られると考えられている。
水星は太陽系のいちばん内側の惑星、地球と太陽の距離の1/3しかない。
太陽に近いため、そのままでは探査機の表面温度は400℃にも上がってしまう。この高温から探査機を守るために、MMOの側面にはOSR(Optical Solar Reflector)が貼られている。この素材はガラスに銀の蒸着を施したもので、太陽光を反射して熱が入り込むのを防ぎ、かつガラスから赤外線を放出して内部の熱を外に逃がす性質を持っている。これにより探査機内部への熱の入り込みを大幅に遮断している。OSRを貼り付けることができないアンテナは高温が避けられない、そのために裏側をチタンとセラミックのメッシュで作られた多層断熱材を使用して高温にも耐える工夫がなされている。
そばを通り過ぎるだけ(フライバイという)の観測を行った「マリナー10号」、初めて周回軌道に入った「メッセンジャー」に次いで、軌道も観測機器も異なる2機の探査機を国際共同で同時に送りこむベピ・コロンボ計画。
灼熱の惑星に隠された謎にどこまで迫れるか、水星到着の日が待たれる。
小笠原 雅弘(おがさわら まさひろ)
NEC、チーム「はやぶさ」メンバー。軌道系、航法誘導系担当、特にイトカワへの着陸に使われたターゲットマーカやフラッシュランプを手がけた。1985年にはじめてハレー彗星へ旅した「さきがけ」をはじめ、スイングバイ技術を修得した「ひてん」、月のハイビジョン映像を地球に送り届けた「かぐや」など日本の太陽系探査衛星にずっと携わってきたエンジニア。
現在、NEC航空宇宙システム勤務。