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海に棄てられた廃タイヤがヤドカリの墓場になる?!

(2021年12月01日)

 漁業で使われる漁網やカニかごといった漁具は、プラスチックなどの丈夫で、簡単には分解しにくい素材で作られているため、投棄されると海中に長くとどまることになります。しかも投棄漁具が意図せずに魚介類を捕殺し続けることがあり、「ゴーストフィッシング(幽霊漁業)」と呼ばれて問題視されてきましたが、ゴーストフィッシングは漁具だけではなく、海に棄てられた廃タイヤによって起こることが、弘前大学農学生命科学部の曽我部篤准教授らの研究グループによって明らかになりました。

 これまでにも海洋投棄された廃タイヤは有害物質が溶け出すなどの問題が指摘されてきましたが、曽我部准教授が沿岸の砂泥地の海底に棄てられた廃タイヤの内側にヤドカリがいることを発見(下写真)。廃タイヤから抜け出せなくなって、多くのヤドカリが死んでいるのではないかと考えました。

(写真) 砂泥地の海底に不法投棄された廃タイヤの内側に多くのヤドカリや巻貝の殻があることを発見し、廃タイヤによってヤドカリに対するゴーストフィッシングが起こっているのではないかと考えられました。
©弘前大学 曽我部 篤 准教授

 ヤドカリに対する廃タイヤの影響を明らかにするため、陸奥湾沿岸の水深8mの海底に実験的に6つの廃タイヤを沈めて、廃タイヤに入るヤドカリの種類、個体数、大きさを月に一回調べ、これを1年間続けました。その結果、ケブカヒメヨコバサミ、ユビナガホンヤドカリ、ケアシホンヤドカリなどのヤドカリ類が、季節によってばらつきはあるものの、1年を通じてタイヤに入り、その数は1年間で合計1278匹にもなりました(下図)

(図) 陸奥湾に6つの廃タイヤを沈めて、ヤドカリが捕らえられるかどうかを調べたところ、季節によってばらつきはあったものの、1年間の調査で合計1278匹のヤドカリが廃タイヤに入ることが明らかになりました。
©弘前大学 曽我部 篤 准教授

 これだけ多くのヤドカリが入ってもすぐに脱出できるなら、ゴミの廃タイヤが海底に残る以上に問題にはならないでしょう。曽我部准教授らはヤドカリがタイヤから脱出できるかどうかを調べる水槽実験も行ったところ、タイヤの内側の形がヤドカリにとっては「ネズミ返し」のように働いて、タイヤから脱出できたヤドカリはまったくいませんでした。これでは一度、廃タイヤに入ったヤドカリは生きては出られないと考えられます。

 ヤドカリは生物の死骸を食べる「海の掃除屋」であり、肉食性の魚や大型甲殻類のエサにもなるため、沿岸生態系において重要な役割を担っているだけに、海底に沈んだ廃タイヤが増えれば、ヤドカリの個体数に影響を与えかねません。ヤドカリに対するゴーストフィッシングを防ぐためにも廃タイヤの適切な処理が求められます。

 

【参考】

https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsos.210166

海洋投棄された廃タイヤがヤドカリを捕殺している

斉藤勝司

サイエンスライター。大阪府出身。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。最先端科学技術、次世代医療、環境問題などを取材し、科学雑誌を中心に紹介している。