海底の岩石内に微生物が棲んでいた!!
(2020年5月20日)
(左上)掘削船ジョイデス・レゾリューション号。
(右上)2010年のIODP第329次研究航海で得られた亀裂を含む玄武岩コア。
(下)岩石の亀裂部分の蛍光顕微鏡写真。
緑色の部分がDNA染色された微生物の細胞、オレンジ色が粘土鉱物、黄色の部分は粘土鉱物と微生物細胞が混在することを示す。
(写真提供/海洋研究開発機構)
海は地球の表面積の70%を占めています。海底に広がる海洋地殻は、ふつう玄武岩で覆われていて、その厚さは500~1000mにも達します。海洋地殻の上部を占める玄武岩は、中央海嶺から噴出した溶岩が冷えて固まったもの。地球の38億年の歴史と共につくられてきたのです。
海洋地殻を構成する玄武岩のうち、形成されてから350~800万年ほどの新しい玄武岩には、無機的なエネルギー源を利用する微生物が棲んでいることが、2013年に報告されています。その一方、海洋地殻の90%以上は、1000万年より前に形成されたもので、それらの古い玄武岩の中に微生物が存在するのかは大きな謎でした。
このほど、東京大学や海洋研究開発機構などの研究グループは、3350万年前と1億400万年前の海洋地殻に、微生物が高密度に生息していることを発見しました。この研究成果は、国際科学誌『Communications Biology』に掲載されています。
この研究で使われた玄武岩の試料は、国際深海科学掘削計画(IODP)の第329次研究航海(2010年に実施)により、南太平洋の水深3738m~5697mの地点で掘削され、海底の堆積物の下55m~124mの玄武岩から採取されたものです。
研究グループは、特別な装置や先端技術を駆使して、厚さ3μm(0.003mm)の玄武岩の切片をつく作り、玄武岩の亀裂に沿った粘土鉱物中に微生物を発見しました。驚いたことに、玄武岩の亀裂に棲む微生物の数は、1立方cmあたり100億個以上。これは人間の腸内細菌の密度と同程度だったのです。
海底の玄武岩の内部は、微生物が生息するのに必要なエネルギー源が少ない極限環境です。そのようなところで、微生物はどのように生きているのでしょうか?
DNA解析の結果から、玄武岩内の微生物は、有機物をエネルギー源とする種類だとわかりました。つまり、亀裂内の粘土鉱物に含まれる有機物を使って、生きているわけです。玄武岩は高温のマグマからつくられるので、最初は有機物を含んでいません。それが冷えて固まった後に、岩石内部で生成された有機物や、海水などから流入してきた有機物が粘土鉱物にたまっていくのではないかと、研究グループでは予想しています。今後の研究で、より詳しいメカニズムが明らかになるものと期待されます。
海底の地殻は、火星の地殻上部ともよく似ています。火星の地殻は37億年前までの火山活動でつくられた玄武岩で覆われているのです。火星の地下には今も水が存在すると考えられていることから、今後、火星の生命探査では玄武岩の亀裂が重要なポイントになりそうです。
子供の科学(こどものかがく)
小・中学生を対象にしたやさしい科学雑誌。毎月10日発売。発行・株式会社誠文堂新光社。最新号2020年6月号(5月10日発売、定価700円)では知って役立つ「ロープワーク」を解説。生命の進化にも大きく関わる可能性があるアーキアの特集と、家で楽しく取り組める、とじ込み付録「生命の進化 大すごろく」も必見です。記事執筆:保谷彰彦