漢字の中の災害・防災(その1【震】)
(2018年9月15日)
9月1日は「防災の日」です。また、9月1日をふくむ1週間は「防災週間」となっており、多くの人に災害や防災のことを考えてい頂く様々な取り組みが行われています。
「防災の日」、「防災週間」は、約100年前の大正12年9月1日に関東地震(関東大震災)が発生したこと、古くからこの時期に台風が日本に上陸して災害となってきたことから、過去の災害を忘れないように定められました。
自然災害はくり返しやってきています。しかし、人間の営みのサイクルに比べると、はるかに長いサイクルで発生しています。従って、大きな災害が発生した場合、ほとんどの人はそれを初めて経験することになります。
そのため、昔の人は、自分が経験した災害の記録を残すために様々な工夫をしてきました。災害の様子を記した石碑(せきひ)を建てたり、災害に関する物語や歌を作ったりして、未来の人達に災害のおそろしさ、こわさを伝えようとしました。
漢字の中にも、古代の人達が経験した災害や防災の思いがこめられたものがあります。
漢字は、文字としての位置づけのみで存在しているわけではなく、それを生んだ自然・社会・文化があり、3,500年もの間、意味合いをほとんど変えることなく使われ続けています。そのため、漢字は、その形はもちろんのこと、読みや部首も、成り立ちと体系に基づいています。
古代から伝わる漢字の中にある「災害・防災」のヒミツを見てみましょう。
第1回の今回は、地面がゆれる「じしん」を表わす【震(しん)】のヒミツです。
【震】
この漢字は、どの様に出来たのでしょうか?
【震】は、部首である【雨(あめかんむり)】、つくりの【辰(しんのたつ)】から成り立っています。
【雨】は、雷(かみなり)に由来しています。
雷が落ちると大きな音とともに周りがふるえるため、雷を示す古代の文字にも「ふるう、ふるえる」と言う意味がありました。
また、【雨】は、天候や自然現象に関わる漢字に多く用いられており、この部首を持つ漢字は「雪」、「雲」、「雷」、などがあります。
地震も地球で発生する自然現象であることから、【雨】が用いられています。
一方、【辰】は?
地震を表す動物と言えば、“鯰(ナマズ)”ですが、どうして“辰(タツ)”なのでしょうか。
鯰が暴れて地震が発生するというのは、日本独自の言い伝えのようですから、中国で生まれた漢字のルーツにはなりませんが、【辰】のナゾを解くため、古代の人が書いていた文字を見てみましょう。
最初の図は、古代の人が書いた【辰】で、左より約2,500年前(篆書:てんしょ)、約3,000年前(金文:きんぶん)、約3,500年前(甲骨:こうこつ)のものです。
これらは何を表しているのでしょうか?
【辰】は貝(オオハマグリ)を表しており、下の図のように、オオハマグリが貝がらから足(斧足(ふそく)といいます)をのばしている姿を書いたものです。
オオハマグリが動くときには、ふるえるような動作となることや足を素早くひっこめることから、【辰】には、「ふるえる」、「活発に動く」と言う意味があります。
また、昔の中国の人達はオオハマグリがふるえる様子を見て、地面をふるえさせる地震は、とても大きなオオハマグリが引き起こしているとも考えたようです。
この様にして、地面が「ふるえる」自然現象を表す漢字として【震】ができました。
昔の人達は、地面が大きくふるえ、家などをこわしてしまう地震がどうして発生するのか分からないため、前述のように中国ではオオハマグリが、日本ではナマズが引き起こしていると考えました。
もちろん現代の私達はオオハマグリやナマズが地震を発生させているわけでは無いことを知っていますが、「地震」がどうして発生するのか、発生した地震のゆれはどの様に伝わるのか、が分かったのは明治時代以降(約150年前)です。
大きな動物が地震を引き起こしていると考えていた時代から比べれば、科学的な研究が進んだ現代ですが、「地震」については、まだまだ分かっていないことがたくさんあります。
このため、地道な観測や研究が今も続けられています。
長屋 和宏(ながや かずひろ)
国土交通省 国土技術政策総合研究所(国総研) 企画部 主任研究官(つくば科学教育マイスター)
私たちの生活を支える橋などの土木インフラの大切さを知ってもらうために、出前講座などを通じて国総研の活動を分かりやすく発信しています。
特に防災分野では、小中学生の皆さんと一緒に、様々な視点で勉強しています。