[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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漢字の中の災害・防災(その2【川・水】)

(2018年10月01日)

 今年は、6月末から7月はじめにかけて台風7号などによる「平成30年7月豪雨(ごうう)」が発生し、9月はじめには台風第21号が非常に強い勢力を保った状態で日本に上陸しました。
 これらの豪雨や台風により、西日本地域および近畿地方を中心に大きな被害(ひがい)が出ました。

 強風、大雨、洪水(こうずい)、高潮(たかしお)、波浪(はろう)などによる「風水害」は、毎年のように全国各地で発生しており、「川」と「水」が大きく関わっています。

 漢字の中にある「災害・防災」のヒミツ、第2回は【川・水】です。

【川・水】
 この2つの漢字は、いずれも小学1年生で学習します。
 物の形などをかたどって字形が作られる漢字(これを“象形”といいます)の代表的なもので、水が流れているようすを表していることは現代の私たちが使用している【川】、【水】からもうかがえます。

 では、昔の人達は、どの様な水の流れを表したのでしょうか?
 前回の【震】のヒミツ同様に、古代の人が書いた文字をみて、ヒミツ探ってみましょう。

 最初の図の一番左は現代の私たちが書いている【川】と【水】で、約1,700年前に、ほぼ今の形(楷書:かいしょ)となりました。
 楷書から右に向かって、より古代の人達が書いていた【川】と【水】で、それぞれ、約2,500年前(篆書:てんしょ)、約3,000年前(金文:きんぶん)、約3,500年前(甲骨:こうこつ)のものです。

 いずれの文字も古代から大きく変わってはいません。
 【川】と【水】、それぞれの漢字はいずれも「水」の流れを表しており、【川】は大きな「水」の流れ、【水】は小さな「水」の流れを示しています。

 この写真は、埼玉県を流れる荒川(あらかわ)のふだんの様子(写真左)とたくさん雨が降った後(写真右)の様子を、同じ場所で写したものです。
 私たちは、土を盛り上げて作られた堤防(ていぼう)と堤防に囲まれた区間を川の区域と認識していますが、ふだん水が流れているのはその一部です。川の周辺や上流でたくさんの雨が降ると、川には多くの水が流れこみ、写真のように堤防と堤防の間いっぱいに水が流れることもあります。
 それぞれの流れにおける水の量の差は、ある川では800倍にもなります。
 この様に、同じ川でも時によって、小さな流れと大きな流れを見ることができます。

 もう一度、最初の図の最も古い、【水】の文字(甲骨)を見てください。
 真ん中の一筋の線は、この字が表す「水」の流れの中の大きな流れ、左右の点は、小さな流れを表しており、1つの「水」の流れの中で異なる流れを示していると言われています。
 「水」の流れの大小関係は、流れの速さのちがいとも言えますが、本当に真ん中とその左右で流れの速さは異なるのでしょうか?

 小学5年生理科の教科書には、「流れる水のはたらき」の学習で、流れの速さを調べる実験方法があります。その実験は板を用いて川に入って行うもので、川の流れを板でおさえた手応えや、板の上に乗せた小石や砂を川面に静めて流れるようすを、川岸に近い場所や川の真ん中で比べます。

 ここでは、川の中に入らずに、今は水が流れていない川原の様子から、流れのちがいを探ってみましょう。

 この写真は、筑波山のふもとを流れている桜川です。右の写真は、川原に降りて、下流に向かって写したものです。荒川の写真で示したように、大雨が降ると川原にも水が流れます。

 川原の表面を見てみると、大雨が降った時の流れの外側にあたる場所には細かい砂がありますが、中側にあたる場所には石しかありません。これは、外側では水の流れがおそいため細かい砂が川原に残され、中側では水の流れが速いため砂は流されて残らなかったことを示しています
 この様に、川原の様子からも一つの水の流れ中には、大きな(速い)流れと小さな(おそい)流れがあることが分かります。

 昔の中国の人達は、【川】と【水】を文字として表現するために、流れを注意深く観察しました。
 現代の私たちも川の流れを注意深く観察しています。
 実際の川の流れは、流れの外側、中側だけでなく、場所によって深さが異なっていたり、曲がった場所があったりして非常に複雑です。このため、正確な川の模型を作り、水がどのように流れるかを注意深く観察して、防災などに役立てています。

 

 

※桜川の堆積物の紹介は、中小規模の川がほぼ直線的に流れており、中心が最も深くなる単純な断面を有すると考えられる場所での事例です。川の流れは複雑なので、堆積物の違いは他の理由も考えられます。

 

長屋 和宏(ながや かずひろ)
 国土交通省 国土技術政策総合研究所(国総研) 企画部 主任研究官(つくば科学教育マイスター)
私たちの生活を支える橋などの土木インフラの大切さを知ってもらうために、出前講座などを通じて国総研の活動を分かりやすく発信しています。
 特に防災分野では、小中学生の皆さんと一緒に、様々な視点で勉強しています。