環境浄化に活かせるか? 食品廃棄物の豚骨が簡単な処理で有害金属の吸着剤に変身!
(2021年3月02日)
過去、幾度となく有害金属による環境汚染が起こったことから、鉱山や工業地帯では有害金属を漏れ出させないための様々な対策が講じられています。2011年の東日本大震災に伴う福島第一原発の事故では、放射性ストロンチウムなどの放射性物質が広域に拡散してしまったこともあり、有害金属や放射性ストロンチウムの拡散を防ぐ高性能な吸着材が求められるようになっています。
ただし、いくら高性能でも高価な吸着材ではなかなか利用できるものではありません。安価で大量に作れる吸着材の開発に取り組むことにした日本原子力研究開発機構と東京大学の研究グループは、骨がストロンチウム、カドミウム、鉛といった金属を取り込みやすいことに注目しました。食品業界では日々大量の牛や豚の骨が廃棄されていますから、廃棄骨を吸着材として利用できれば、有害物質の拡散防止に加えて、廃棄物の有効活用にもなるでしょう。
実際、食品廃棄物として排出された骨を使って、原子力施設内で放射性元素を除去する試みも行われましたが、十分な吸着性能は確認できず、廃棄骨を吸着材として実用化することはできませんでした。そこで研究グループは今一度、骨が金属を取り込む仕組みに注目しました。詳しくは明らかになっていませんでしたが、骨の主成分である炭酸アパタイトに含まれるカルシウムが金属に似た性質であることに加えて、炭酸も関わっているのではないかと考えられていたことから、骨に含まれる炭酸量を増やしてストロンチウム、カドミウム、鉛がどれほど吸着するかを調べました。
食品廃棄物の豚骨ガラを、食品添加物としても利用されている重曹(炭酸水素ナトリウム)の水溶液に漬けて、より多くの炭酸を含む骨を作成。電子顕微鏡で観察したところ、ナノメートルサイズの炭酸アパタイトの結晶が数多く付着していることを確認しました(画像1)。重曹処理した骨(高炭酸含有アパタイト)は、未処理の骨よりも多く炭酸を含むため、炭酸が金属の取り込みに関わっているなら、多くの金属を吸着すると期待されます。
研究グループはストロンチウムを含む水溶液に重曹処理した骨を入れた後、水溶液中に残ったストロンチウムを測定して、どれだけ吸着したかを調べました。その結果、重曹処理した骨は3分以内に水溶液中の99%以上のストロンチウムを吸着できることが明らかになりました。水溶液から吸着材へストロンチウムが移行する性能を示す分配係数Kd値を用いて吸着性能を比較した結果、重曹処理した骨は未処理の骨よりも約250倍、ストロンチウムの吸着剤として使われる天然鉱物の一種クリノプチロライトと比較しても約20倍もの高い吸着性能を有することが分かりました(画像2)。
重曹処理した骨はカドミウムや鉛に対しても高い吸着能力を示していますから、重曹に漬けるという簡単な方法で大量に排出される廃棄骨を、有害金属や放射性物質を取り除く吸着材に変えることができます。今後、環境浄化技術として応用できると期待されています。
【参考】
・廃棄豚骨が有害金属吸着剤に―廃材を利用した安価で高性能な金属吸着技術を実現―
斉藤勝司
サイエンスライター。大阪府出身。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。最先端科学技術、次世代医療、環境問題などを取材し、科学雑誌を中心に紹介している。