目の角膜の機能をヒントにできた強くて透明な高分子
(2020年4月02日)
シリカの微粒子を増やしていくと複合エラストマーの透明度が高くなっていく。写真では右にいくほど濃度が濃い。34%(容積比)のシリカ微粒子を含むときの配列状態を電子顕微鏡で見ると、規則正しく並んでいるのがわかる。
目の表面を覆っている角膜は透明なので目でものを見ることができます。いったい、どのようなしくみで透明になっているのでしょうか。
角膜は、ムコ多糖と呼ばれるゼリー状の物質と水を主成分としたゲル状物質(お菓子のグミのように柔らかいが液体ではなく個体状の物質)の間にコラーゲンの繊維が並んだ構造になっています。
コラーゲン繊維の屈折率はゲル状物質より高く、光を散乱するものの、この散乱を打ち消す光の干渉がおこりやすい繊維の構造になっています。これにより、角膜は無色透明になっていると考えられています。
また、角膜は目を保護するために強靭な組織である必要がありますが、これはコラーゲン繊維とゲル状物質の複合化によって実現されています。
名古屋大学大学院工学研究科の竹岡敬和准教授らの研究グループは理化学研究所放射光科学研究センターの星野大樹研究員・ユニチカ(株)の研究者と共同で、角膜の仕組みをヒントにして、透明な複合エラストマー(ゴム状で弾性を示す高分子)をつくることに成功しました。
研究グループは、緩やかに結合した柔軟な高分子中に大きさのそろった直径約100nmのシリカの微粒子を高濃度で分散させることで、無色透明になるとともに丈夫(靭性が高く粘り強い)になることを発見しました。
シリカとは、二酸化ケイ素のことで、砂の中にたくさん含まれている物質です。今回の研究では、シリカの結晶ではなく、食品や化粧品に用いられている非結晶性のシリカが用いられました。
開発された複合エラストマーは、大きさのそろったシリカの微粒子が規則正しく並んだ構造になっています。この結果、前述のように屈折した光が干渉によって相殺され、無色透明な状態になりました。シリカ微粒子の規則正しい配置は、大型放射光施設SPring-8(兵庫県播磨科学公園都市)のビームラインBL05XUのX線分光を用いた実験によって確認されました。
これまでも、同様に結合した高分子と充填剤を複合した強靭な複合エラストマー(例えばタイヤ)がつくられていましたが、光を通す透明性を持ったものがつくられたのは、今回が初めてだといいます。
透明なので外力によって変形した場合、その物理的変化を特殊な光学顕微鏡で観察することができます。また、X線散乱法を用いた手法によって変形時の微粒子の挙動を調べることが可能になるので、より強靭な複合エラストマーを設計する際の指針となります。
将来は、高度先進医療、ウエアラブルディスプレイ、ソフトロボットなどの技術に応用できるのではないかと研究者たちは考えています。
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記事執筆:白鳥 敬
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