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省エネで除湿する新素材~これまでにない新しい除湿システムが実現

(2018年8月15日)

スマートゲルに吸湿された水を蒸発させることなく、液体状態の水として直接取り出すことができる。

 これまでにない新しい材料を使った除湿システムが開発されました。スマートゲルと呼ばれるこの物質は、関西大学化学生命工学部・宮田隆志研究室とシャープの共同研究によってつくられたものです。この材料は、大気中に気体の状態で存在する水蒸気(湿気)を吸収し、熱を加えることで液体の水を取り出すことができます。

 この材料は、海藻の成分である親水性のアルギン酸(Alg)と温度応答性のポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)とが、網目状に絡み合った構造を持っています。親水性のアルギン酸は空気中の水蒸気を吸着(吸湿)し、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)の方は、32℃あたりを超える温度になると、吸湿した水蒸気を液体の水としてしみ出させます。

 研究チームが凍結乾燥によって完全に乾燥させたスマートゲルを使い実験を行ったところ、室温で水蒸気をよく吸着し、これを50℃に加熱すると水がしみ出してくることを確認しました。つまり、この物質を部屋に置いておくだけで、空気中の湿気を吸収し、熱を加えて50℃というそれほど高くはない温度にすることで、水として取り出すことができるのです。また、この現象は可逆的であるため、何度も繰り返し行うことができます。

 このような化学物質を利用した除湿システムにはゼオライトを使ったものがありますが、吸湿した後、高温で加熱する必要があり、さらに水にするために水蒸気を凝縮させるというプロセスが必要です。これに対して、スマートゲルは熱を加えて、わずかに温度を上昇させるだけで水として取り出せるので、非常に省エネな除湿システムといえます。

 この技術を除湿機に応用すれば、今より省エネな除湿機ができるでしょう。この他、私たちの生活環境を快適にする技術として広く活用されると考えられます。

 また、通常、水が液体と気体(水蒸気)の間で相変化するとき、潜熱の出入りがありますが、このスマートゲルにおける相変化は、わずかな温度変化によって起こることを示した点にも注目されます。

 

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