約6,600万年前の大量絶滅をきっかけにダンゴイカの多様化が始まった
(2021年8月01日)
ダンゴイカ目に属するイカの一種のブレナーミミイカ。2019年に新種として報告された。種名は沖縄科学技術大学院大学の創設者の一人でありシドニー・ブレナー博士の名前に由来する。©ジェフリー・ジョリー(OIST) CC BY 2.0
ダンゴイカ目に分類されるダンゴイカ科、ミミイカダマシ科のイカ(写真)は、体長が1~8㎝と小型ながら、沿岸の浅瀬から外洋まで世界中の広い海域に分布しています。簡単に採集できる上、実験室で大量に飼育できることから、モデル生物として生物学の研究で利用されています。種類数も多く、これまでにダンゴイカ科は68種、ミミイカダマシ科は5種類が確認されていますが、これだけ多様なダンゴイカ目がどのように種類を増やしたのかについては明らかになっていませんでした。
そこで沖縄科学技術大学院大学、広島大学、アイルランド国立大学ゴールウェイ校の研究グループは、インド太平洋(インド洋から太平洋にかけての暖かい海域)、大西洋、地中海に生息するダンゴイカ目のイカ合計32種を採集して、その遺伝子を調べました。種類ごとに遺伝子の違いを比較することによって、いつ頃、種類が別れたのかを推定できることから、32種類を対象とした研究で約6,600万年前にダンゴイカ目の共通祖先からダンゴイカ科とミミイカダマシ科が分岐したことが明らかになりました。
約6,600万年前というのは恐竜をはじめとする世界的な大量絶滅が起こった時期と重なります。研究グループは多くの生物群が消滅した後にダンゴイカ目を含む現在の海洋生物の多様化が始まったと考えました。
さらに研究グループはダンゴイカ科の中でも最も種類数が多いダンゴイカ亜科がインド太平洋に分布するグループと大西洋や地中海に分布するグループに分けられることにも注目。ダンゴイカ亜科に属するイカの遺伝子を比較したところ、両グループが約5,000万年前に分岐したことが分かりました。この時期にかつて地球に存在したローラシア大陸とゴンドワナ大陸に挟まれたテチス海と呼ばれる海域が大陸の移動によって消滅したことから、テチス海の消滅をきっかけにダンゴイカ亜科は2つのグループに分かれたと考えられています。
今回の研究で遺伝子が調べられたのはダンゴイカ目のうちの半分ほどに留まるため、残りの種類についても遺伝子を調べていくことが求められますが、遺伝子を比較することでダンゴイカ目が多様化するきっかけを明らかにできたのですから、今後、特定の分類群の遺伝子を調べて、過去、地球に起こった出来事と生物進化の関係を解き明かしていけると期待されます。
【参考】
・Phylogenomics illuminates the evolution of bobtail and bottletail squid (order Sepiolida)
・ダンゴイカの多様性が約6,600万年前の生物大量絶滅に起因していることを発見
斉藤勝司
サイエンスライター。大阪府出身。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。最先端科学技術、次世代医療、環境問題などを取材し、科学雑誌を中心に紹介している。