美しい花をより長く楽しめるようになる? アサガオの花の寿命を延ばす化合物を発見
(2024年10月15日)
花の寿命(じゅみょう)は遺伝的にプログラムされた仕組みによって制御(せいぎょ)されています。花が咲いて一定の時間が経つと、細胞死に関わる遺伝子が発現し、タンパク質などの細胞成分の分解が促され、花は萎(しお)れていきます。花を枯らす仕組みと言えますが、これを逆手にとってうまく利用できれば観賞用の花の寿命を延ばせるようになるかもしれません。
愛媛大学プロテオサイエンスセンター(PROS)と農業・食品産業技術総合研究機構の研究グループは、過去の研究でアサガオの花の寿命に関わるEPHEMERAL1(EPH1)という転写因子を特定していました。転写因子はDNAに結合して、近くの遺伝子の発現を制御する働きを持っていますから、EPH1は花の寿命に関わるタンパク質の発現を調節していると考えられます(図1)。
EPH1がDNAに結合するのを阻害する薬剤を見つけることができれば、花を枯らす仕組みを抑えて、花の寿命を延ばすことができるでしょう。研究グループは、PROSが独自に開発した「コムギ無細胞タンパク質合成システム」と呼ばれる技術を用いてEPH1を合成し、これがDNAに結合するかどうかを調べる分析手法を確立。東京大学大学院薬学系研究科附属創薬機構が所有する膨大な化合物の中から、EPH1とDNAの結合を阻害する薬剤としてEverlastin1とEverlastin2を見つけ出しました。
EPH1は同じ分子が2つ結合してできる二量体となってDNAに結合するのですが、Everlastin1、Everlastin2はEPH1が二量体化するのを阻害して、DNAに結合する能力を低下させられることも分かりました。
そこで実際に花の寿命を延ばせるかどうかを確かめるため、Everlastin1、Everlastin2を溶かした水にアサガオの切り花を浮かべる実験を実施。通常、アサガオは咲いたその日のうちに枯れてしまう“一日花”と呼ばれていますが、Everlastin1、Everlastin2を溶かした水に浮かべると花の寿命が約2倍に延長されました(図2)。
ユリなどの主要な切り花でもEPH1に類縁のタンパク質が花の寿命に関与していると考えられていますから、同様の手法で花の寿命の延ばす薬剤が発見されれば、花屋さんで購入した美しい花をより長く楽しめるようになるかもしれません。
【参考文献】
■愛媛大学プレスリリース
アサガオの花の寿命を延ばす化合物を発見~花弁の老化調節因子を標的とした機能阻害化合物の選抜に成功~
■論文のAbstract(アブストラクト(要旨))
斉藤 勝司(さいとう かつじ)
サイエンスライター。大阪府出身。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。最先端科学技術、次世代医療、環境問題などを取材し、科学雑誌を中心に紹介している。