脈動するオーロラの立体構造がわかった
(2022年10月15日)
高緯度地方の100-300km上空に現れるオーロラは、太陽から飛んでくる電子などの荷電粒子が大気中の酸素や窒素の粒子と衝突して光を発するものです。
オーロラは電子の流れの変化によって波打つように光りますが、中には数秒間隔で明滅を繰り返すものがあります。これを脈動オーロラといいます。脈動オーロラは、磁気圏に高エネルギーの電子が波のように繰り返し入ってくることでできると考えられています。また高エネルギー電子はもっと低い成層圏あたりまで下がってくることがわかっており、オゾン層へも影響すると考えられています。
このたび、国立極地研究所・東北大学・電気通信大学の研究グループは、北欧の3地点で撮影されたオーロラ画像をもとに、医療用CT(computer tomography)の手法を用いて、脈動オーロラの3次元構造を可視化することに成功しました。CTとは対象物を複数の方向から切り取った断面画像データを使って立体的な画像を再現する技術です。
これまでオーロラの観測は、オーロラが出現している高度を通過する観測ロケットや人工衛星によって行われてきました。しかし、これらの観測機器は高速で移動しているため、長時間の継続観測ができませんでした。
今回、地上から観測された画像データを用いた解析が可能になったことで、脈動オーロラの3次元分布と、時間の経過による変動を詳細に捉えることができたのです。
研究グループは、ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの3地点に設置されたオーロラ観測用高感度カメラによって撮影された脈動オーロラの連続画像をもとにCT解析を行いました。
得られた3次元構造は大型大気レーダーEISCAT(上空に向かって電波を発射し、散乱されて戻ってきた電波から電離層のようすを知る装置)で観測した電離圏の電子密度の状態を精度良く再現していることも確認されました。また、成層圏まで高エネルギー電子が降下していることもわかりました。
今回のような観測・解析方式は、地上の観測施設で得られたデータを使って行えますから、低コストかつ簡便という大きな特徴があります。世界各地に観測点を増やせば、地球規模のオーロラ観測網を構築することができます。まだ未解明な部分の多い超高層大気が解明されることで、地球環境の変動に対する理解がさらに深まると言えます。
観測に用いた脈動オーロラの全天画像 ©国立極地研究所
2018年2月18日0時0分~1時30分。スウェーデンのアビスコ・フィンランドのキルピスヤルヴィ・ノルウェーのシーボトンに設置されたカメラによる画像。427.8nmの波長で撮影。
地上の3地点からの観測画像をもとにCT解析を行って得た3次元画像 ©国立極地研究所
脈動オーロラの3次元構造と降下した高エネルギー電子の2次元分布(図の最上部)がわかる。
【参考】
・国立極地研究所プレスリリース「コンピュータトモグラフィにより脈動オーロラの3次元構造の復元に成功!」(2022年8月26日)
サイエンスライター・白鳥 敬(しらとり けい)
1953年生まれ。科学技術分野のライター。月刊「子供の科学」等に毎号執筆。
科学者と文系の普通の人たちをつなぐ仕事をしたいと考えています。