[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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航空機の大敵「晴天乱気流」を35m格子で精密に可視化した

(2023年8月01日)

 飛行機に乗っているとき、雲の中を飛行しているわけでもないのに、機体がガタガタと大きく揺れた経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。このように晴れているのに大気の状態が乱れているものを晴天乱気流といいます。晴天乱気流は目視では分からず、飛行機に搭載した気象レーダーでも探知しにくいので、いきなり晴天乱気流に突入して、シートベルトをしていなかった乗客が天井などに頭をぶつけて負傷するという事故になる場合があります。飛行前に晴天乱気流のありそうな場所を予想し、その高度を避けるようにはしていますが、なかなか完璧にはいきません。

 

 そこで、名古屋大学 宇宙地球環境研究所 特任助教の吉村 僚一 氏・東北大学 流体科学研究所の焼野 藍子 助教・東北大学大学院 理学研究科の伊藤 純至 准教授らの研究グループは、冬季の東京湾上空3-4kmで過去に発生した晴天乱気流のデータをもとに、格子幅35メートルという超高解像度の数値気象シミュレーションを行い、晴天乱気流の細部の構造を明らかにしました。これを当時、晴天乱気流のある空域を実際に飛行していた飛行機の揺れを記録したデータと比較してみたところ、従来の解像度の低い計算では見えてこなかった細かな渦が激しく上下している様子が明瞭に見えてきました。

 

 乱気流のサイズが機体の長さに近いスケールのときに、飛行機は小刻みに揺れます。数値シミュレーションでは、細かな渦が上昇気流と下降気流を作り、小刻みな揺れを生んでいる様子が見てとれます。35メートルというこれまでになかったような高解像度で大気の流れを計算するには、膨大な計算機リソースが必要だったのですが、この課題はスパコン「富岳(ふがく)」を利用することで解決されました。

 

 研究グループは晴天乱気流が発生しているときの関東地方上空3-4kmの風のようすをシミュレーションし、実際の飛行機が乱気流と遭遇した空域と重なるように、風速の乱れがあることを見い出しました。また風速の乱れは乱気流域の南西側(風上側)で発生した、ケルビン・ヘルムホルツ不安定波(接する2層の気流の密度の違いから生まれる不安定性)が、乱気流域の北東側で崩壊することで生まれていることもわかりました。数値シミュレーションの結果を見ても、風下の方で細かな渦がたくさん生まれていることが見てとれます。

 

 今回、晴天乱気流内部にある渦の詳細な動きが分かったことで、晴天乱気流そのもののメカニズム解明につながるのはもちろん、晴天乱気流の予測技術の開発にもつながるため、航空機の安全運航に寄与すると思われます。

aは晴天乱気流が実際に報告された場所。 bは高度3kmの「富岳」によるシミュレーションの結果。赤は上昇気流、青は下降気流。 cはb図のY-Y”の鉛直断面図。 風下側(北東側)では細かな渦がたくさんできて上下に乱れて小刻みに揺れているのがわかる。©東北大学 流体科学研究所

 

超高解像度シミュレーションによる晴天乱気流遭遇のデジタルツイン
~スーパーコンピューター「富岳」による解析映像~

 

【参考】

■東北大学プレスリリース 

飛行機を揺らす見えざる脅威を可視化 ~東京湾上空で発生した晴天乱気流をスーパーコンピュータ「富岳」で再現~

サイエンスライター・白鳥 敬(しらとり けい)
1953年生まれ。科学技術分野のライター。月刊「子供の科学」等に毎号執筆。
科学者と文系の普通の人たちをつなぐ仕事をしたいと考えています。