複合現実技術で遠隔地との3次元オンライン診療を実現
(2020年11月01日)
病院にいながら、遠隔地の患者をリモートで診察できる3次元オンライン診療システムが開発されました。
順天堂大学大学院医学研究科の服部信孝教授、大山彦光准教授、関本智子非常勤助教らの研究グループによるもので、「Holomedicine(ホロメディスン)」と名づけられています。これは、高速大容量通信ネットワークと拡張現実(AR、Augmented Reality)・複合現実(MR、Mixed Reality)技術を利用して遠隔地にいる患者と医師が、あたかも診察室で対面しているかのように診察が行えるものです。
今回、100名のパーキンソン病の患者に対してこのシステムを用いたところ、実際に対面して得られた運動症状の評価値と当システムによるオンライン診療で得られた評価値に高い相関関係があることが分かりました。これによって、3次元オンライン診療システムが対面診療の代替として使うこと可能であることが示されました。
パーキンソン病とは、運動機能に障害をもたらす病気で、手足や体の震えなど特徴的な症状が表れ、患者の身体の動きを詳細に診察することで診断や治療を行います。
実験では、遠隔地にいる患者の動作情報を、マーカーレス3次元モーションスキャナKinect v2(対象者にマーカーをつける必要がない装置)を用いて、3次元情報としてリアルタイムにスキャンし、そのデータを医師のもとに伝送しました。医師はマイクロソフト社のヘッドマウント型拡張現実ウェアラブルコンピュータ「HoloLens」を装着し、患者の身体の動きを診察室の中に拡張現実(AR)技術で重ねて表示させ、あたかも患者と対面しているような状況を仮想的に作り出します。
またこのときに、診察時の患者の身体の動きのデータをクラウドに蓄積してゆき、AIを用いてさまざまな症状の解析を行うことや、病気を診断するための補助アルゴリズムの構築することができるとされます。
将来は5Gの高速通信網を利用することを計画しており、このような遠隔診療ができる3次元オンライン診療システムは、パーキンソン病だけでなく他の多くの病気の診察にも使える可能性を持ちます。ウイズコロナと言われる新型コロナの感染が広がる今の社会において、自宅で診察を受けたいというニーズが高まっていくと思われます。まさに本システムは、近未来のオンライン診療の姿を見せてくれたといえるでしょう。
図:本研究で開発した3次元オンライン診療システム(Holomedicine)
上図:双方向性3次元オンライン診療システム。医師側(右写真)および患者側(左写真)は離れた場所にいる相手がヘッドマウントディスプレイを介して目の前にいるように映ります。
下図左:3次元オンライン診療システムに用いたデバイス(HoloLensとKinect v2)。
下図右:3次元オンライン診療システムで得られた運動症状の評価値(横軸)と、医師が対面で評価した運動症状の評価値(縦軸)について、高い検者間信頼性(級内相関係数ICC)がみられました。
【参考】
・プレスリリース 3次元オンライン診療システムを開発~ポストコロナを見据えた未来の医療実現に向けて~(発表:学校法人順天堂)
https://www.juntendo.ac.jp/news/20200917-01.html
サイエンスライター・白鳥 敬
1953年生まれ。科学技術分野のライター。月刊「子供の科学」等に毎号執筆。
科学者と文系の普通の人たちをつなぐ仕事をしたいと考えています。