言葉を処理する脳の活動をアニメーション化
(2021年12月15日)
言葉を聴き返事をする。このような日常的な動作が行われているとき脳内ではどのようなことが行われているのでしょうか。この脳内での言語処理に関わる神経細胞のネットワークの働きが時間軸を持ったアニメーションとして可視化されました。
横浜市立大学医学部医学科脳神経外科教室の園田真樹客員研究員、米ウェイン州立大学ミシガン小児病院の浅野英司終身教授、同Brian H. Silverstein 研究員らの研究チームは、5才児以降の脳内言語ネットワークに関する神経生物学的モデルを発表しました。このモデルは、脳内の6次元ダイナミックトラクトグラフィー解析技術を用いて可視化されました。トラクトグラフィーとは神経回路の3D化を行う手法です。
6次元ダイナミックトラクトグラフィーは、脳内の神経線維の走行状況を3次元的に可視化する従来のトラクトグラフィーの機能に加えて、離れて存在する言語処理領域間の関係性・神経繊維の連結の強さ・伝達速度という3つの要素を加えたもので、より詳細な3D動画として脳内情報ネットワークを可視化できます。
脳内で言語処理を行う領域はいくつもありそれぞれ離れて存在することが知られていますが、これらの領域間でどのような経路を通って、どれくらいの速度で情報がやりとりされているかはよくわかっていませんでした。
研究グループは、37名の被験者によって記録された3千400か所余りの頭蓋内脳波を用いて、言語活動を行ったときの脳の記録部位の機能的役割と連携状況を解析しました。
被験者に音声で質問文を提示しそれに回答してもらうときの脳表の脳波記録を解析することで機能的役割を評価しました。また連携と神経情報の伝搬速度は、微弱な単発皮質電気刺激を解析することで定量化しました。
これらの解析情報をMRI白質トラクトグラフィーと組み合わせ、言語処理を行っているときの脳内部位の時空間の変化をアニメーション化しました。時間軸は100分の5秒以下の時間解像度でを見ることができますから、情報の伝わり方を詳細に見ることができます。
今回の研究の成果として、言葉の想起に関わる領域は、離れていても連携して活動していること、年齢を経るに従って結びつきが強化されていることも明らかになりました。
脳内の言語処理の可視化が実現したことは脳神経科学の進展に寄与するとともに、脳神経外科の診断や治療にも役立っていくものと考えられます。
〔左の図〕音声を聴いたとき・言語を理解するための処理をしているとき・言葉を発しているときの大脳皮質神経活動を可視化したもの。それぞれ、ピンク・緑・黄色で表されている。 〔中央の図〕回答を想起しているときの側頭葉から側頭葉外に向かう神経伝播。 〔右の図〕回答を想起しているときの側頭葉外から側頭葉に向かう神経伝播。 白点は結合性の強さを表している。 ©横浜市立大学医学部・医学研究科脳神経外科学教室 園田真樹客員研究員
【参考】
・言語処理に関わる脳内ネットワークがアニメーション化で一目瞭然に
サイエンスライター・白鳥 敬
1953年生まれ。科学技術分野のライター。月刊「子供の科学」等に毎号執筆。
科学者と文系の普通の人たちをつなぐ仕事をしたいと考えています。