記憶力を保つ薬の開発につながるか?! マウスを用いて加齢に伴う記憶力低下の原因を解明
(2024年2月15日)
老化に伴って記憶力が低下することは、一定年齢以上の人であれば誰もが実感していることでしょう。こうした加齢に伴って記憶力が低下するメカニズムが明らかになれば、年をとっても記憶力を維持する新薬を開発する道が拓けるかもしれません。その点で注目すべき研究成果が立教大学などの研究グループから発表されました。
脳の奥深くにある松果体(しょうかたい)から分泌されるメラトニンは睡眠と深く関わっていて、脳内でN1-acetyl-5-methoxykynuramine(AMK)という物質に変換されることが知られていましたが、立教大学スポーツウェルネス学部の服部 淳彦(はっとり あつひこ)特任教授らの研究によって、AMKが数分から数時間程度の短期間の記憶(短期記憶)を、より長期の記憶(長期記憶)にする作用があることを明らかにしていました。そこで年老いて記憶力が低下するのは、海馬(かいば)と呼ばれる部位でAMKの作用が低下しているのではないかと考えられ、公立小松大学、関西医科大学との共同で、海馬におけるAMKの作用に関する研究が取り組まれました。
まずAMKがどこで作られているのかを明らかにするため、研究グループはマウスの松果体、血漿(けっしょう、血液中の赤血球や血小板などの細胞成分以外の成分)、海馬に含まれるメラトニン、AMK、そして、メラトニンがAMKに変換される過程で最初に作られる物質であるAFMK(N1-acetyl-N2-formyl-5-methoxykynuramine)を比較しました。その結果、松果体で分泌されたメラトニンは血液を介して海馬に運ばれた後、AFMK、AMKに変換されることが明らかになりました(図1)。
人間と同じように、マウスも老齢な個体では記憶力が低下することが明らかになっていることから、老齢個体と若齢個体で海馬におけるAMKの量を比較したところ、メラトニンやAFMKでは大きな差は生じなかったのに対して、老齢個体のAMKは若齢個体に比べて20分の1以下にまで減少していることが判明(図2)。AMKの合成に関わる酵素の遺伝子を調べて見出された遺伝子が働いているかどうかも調べた結果、老齢個体ではAMKの合成に関わる酵素の遺伝子の発現が減少していました。
AMKの投与により、記憶の形成に重要であるとされるタンパク質のリン酸化が促されることも明らかになったことから、人間でも老化によって記憶力が低下するのは海馬におけるAMKの量が低下するためであると考えられます。そのため、今後、海馬中のAMKの量を増やすような薬や医療技術が開発されれば、年老いてもなお若者と変わらない記憶力を維持できるようになるかもしれません。
【参考】
■立教大学プレスリリース
■「Journal of Pineal Research」に掲載された論文
斉藤 勝司(さいとう かつじ)
サイエンスライター。大阪府出身。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。最先端科学技術、次世代医療、環境問題などを取材し、科学雑誌を中心に紹介している。