逃げるならイカスミ? タコスミ?
(2016年12月01日)
日本近海ではさまざまな種類のイカがとれるので、鮮魚店やスーパーなどでは一年を通して新鮮なイカを買うことができます。とくに今の時期(冬から春)に旬をむかえるのがコウイカです。イカの代表格とも言うべきスルメイカは細長くとがった姿をしていますが、コウイカは丸みをおびた姿をしているので、すぐに見分けがつくでしょう。そして大きな墨袋を持っているため「スミイカ」とも呼ばれています。このコウイカに限らずイカからとれるスミは、イカスミパスタや、イカスミチャーハンといった独特の味と香りと色を活かした料理に幅広く使われています。
ところで、スミを吐く生き物はイカのほかにタコもいますが、そのタコスミを使った料理はなかなか見あたりません。実は、その答えには意外にも「天敵からの逃げ方」が関係しているのです。
イカやタコがスミを吐く理由は、獲物から逃れるためです。大型魚などの天敵におそわれそうになったときにピュッとスミを吐いて逃げるのですが、その逃げ方には大きな違いがあります。
イカは、自分の分身としてスミを吐きます。要するに「こっち(吐いたスミ)の方がおいしいですよ!」という状況をつくって天敵から逃げます。イカスミはタコと比べて粘性(粘り気)が高く、水の中でも溶けたり流れたりしにくいため、吐いた後しばらくその場にとどまっています。加えて、スミの成分にアミノ酸系のうま味成分が多く含まれているため、天敵たちがスミの方を狙っているうちに逃げる…という逃げ方です。
一方、タコは天敵の目をくらませるためにスミを吐きます。「忍法、えんまくの術!」と言っているかはわかりませんが、天敵の視界をさえぎって逃げるのです。イカスミと違って粘性が低くすぐに水に溶けるスミなので、広い範囲の視界をスミ色にすることができます。このような方法で逃げるため、スミにうま味成分を含む必要がないのです。
このようなスミの性質とともに、タコスミはとれる量も少ないのでわざわざ料理にしないという理由もあるのだとか。
もし自分が天敵にであったら、どちらの方法で逃げるのがよいか。ついつい考えてしまいそうですね。
ねこたけ(ペンネーム)
役に立つこと、立たないこと。いろんなことがあるけれど、とにかく「知らないコト」を「わかった!」にたどり着くまであれこれ考えるのが好き。得意分野は「キッチンサイエンス」。身近な「科学」を、わかりやすくお伝えします。