[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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遺跡から出土した魚の骨で明らかになる過去の人間活動と自然環境

(2022年1月17日)

 遺跡から出土する遺物は、過去の人間活動を現代に伝えてくれるだけでなく、そこに含まれる物質を詳しく分析することで、当時、どのような自然環境であったかを解明する手がかりにもなります。特に魚の骨は人間の漁労活動や海洋環境の変化を記録していると考えられています。

 そこで総合研究大学院大学、海洋研究開発機構、礼文町教育委員会、東京大学、慶応義塾大学、北海道大学が参加した国際研究グループは、北海道の礼文島にある浜中2遺跡(写真)から出土した魚骨を詳しく調べ、礼文島に暮らしていた人々の漁労活動と海洋環境を明らかにする研究に取り組みました。

写真 研究対象となった浜中2遺跡のある礼文島の風景 ©蔦谷匠

 研究対象となった浜中2遺跡には、約2300年~約800年前の人間活動の痕跡が残されています。このうち「続縄文文化期」に当たる約2300年~約2250年前の地層と、「オホーツク文化期」に当たる約1500年~約800年の地層から多くの魚骨が出土していたため、これらの時期の魚骨の種類を調べたところ、特にタラ、ホッケ、ニシン、ソイの4種が多く、種類を特定できた骨242点中、203点がこれら4種で占められていました。

 これら4種類の魚骨を手掛かりに海洋環境の変化を捉えられると考えた研究グループは、魚骨に含まれる安定同位体を分析しました。その結果、タラの骨中の窒素の安定同位体の割合が低下し、椎骨の直径が小さくなっていることが明らかになりました(図)

図 出土したタラの骨を詳しく分析した結果、続縄文文化期よりも、その後のオホーツク文化期のほうが窒素の安定同位体の割合が低下し(a)、椎骨の直径が小さくなる(b)ことが明らかになった。

 過去の研究からタラでは窒素の安定同位体と体のサイズが相関することが明らかになっていますから、椎骨の直径だけでなく、窒素の安定同位体の割合の低下からも、続縄文文化期より後のオホーツク文化期のほうが小さなタラが獲られていたことを示しています。

 考古学の研究からオホーツク文化期には船や大きな錘付きの網などの漁具が発達していたことが明らかになっており、今回の分析結果から時代を下りにつれて小さなタラでも効率的に漁獲できるようになった可能性が示唆されます。あるいは、オホーツク文化期に起こった寒冷化の影響で、小型のタラが岸近くを回遊するようになり、多く漁獲された可能性も指摘されています。

 このように遺跡から出土した魚骨は、過去の人間活動や自然環境の変化を推測する手がかりになることが明らかになりました。そのため今後は全国各地の遺跡の遺物も詳細に分析することで過去の出来事を紐解けるのではないかと期待されています。

 

【参考】

魚の骨から復元する漁撈活動と気候変動

Reconstruction of diachronic changes in human fishing activity and marine ecosystems from carbon and nitrogen stable isotope ratios of archaeological fish remains

斉藤勝司

サイエンスライター。大阪府出身。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。最先端科学技術、次世代医療、環境問題などを取材し、科学雑誌を中心に紹介している。