[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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都市化で加速!? シロツメクサの進化

(2022年6月01日)

白い花を咲かせるシロツメクサ。(写真:保谷 彰彦)

 クローバーとして親しまれているシロツメクサは、世界各地に広く分布して、都市にも農村にも生えています。シロツメクサに含まれるシアン化合物は有毒な成分で、草食動物から身を守るのに役立ちます。

 このほど、世界中の数百人の研究者が参加する国際的な研究プロジェクト(グローバル・アーバン・エボリューション・プロジェクト)は、都市に生えているシロツメクサ集団では、防御のためのシアン化合物をあまり生成せず、その分のエネルギーを成長や繁殖に使うことで、都市の環境に適応していることを明らかにしました。この成果は、国際的な科学誌『Science』に掲載されています。

 プロジェクトメンバーの研究者たちは、都市には草食動物が少ないため、都市に生えるシロツメクサでは、防御のためのシアン化合物は生成量が少なくなると予想しました。そして、もしシアン化合物の生成が少ないなら、その代わりに都市環境に適応できるようにエネルギーを使っているかもしれないと考えました。

 そこで、予想を確かめるために、シロツメクサの原産地であるヨーロッパや西アジアと、それ以外の地域を対象に、都市的な環境から自然が残る農村的な環境までを含めて、世界160都市の6169集団から110,019株のシロツメクサを集めて、シアン化合物の生成量を測定しました。そのうち26都市については、都市当たり約80個体について遺伝情報を詳しく調べました。

 その結果、予想は的中して、農村環境と比べて、都市環境ではシロツメクサ個体の多くでシアン化合物の生成量が少なっていました。さらに、シアン化合物の生成には、昆虫などを含めた草食動物が強く関わっていて、草食動物が少ないと、シロツメクサのシアン化合物量は少なくなることがわかりました。

 様々なデータから、都市のシロツメクサが、草食動物に対する防御メカニズムとしてシアン化合物をあまり生成せずに、その分のエネルギーを使って都市環境に適応していることが明らかにされました。そして、これらの現象が世界の多くの都市で何度も起きていることも判明しました。これは、都市の似たような環境により、シロツメクサに類似の進化的な変化が生じていることを示しています。ごく身近なシロツメクサでは、いま目の前で進化的な変化が起きているのです。

 ところで、現在では世界人口の半数以上が都市部に居住しています。その数は今世紀半ばまでには、2/3にまで増加すると予想されています。世界中での急激な都市化が地域の生態系とその生物多様性に与える影響は、まだ十分に解明されていません。そのような中で、今回の成果は、農村や自然が残る環境が、都市化によってこれまでに生物が経験したことのないユニークな生態系へと変化しつつあり、この変化が生命の進化にも影響を及ぼしていることを示しています。このような現象が生物に広く見られるのか、研究グループではさらなる研究が必要だと考えています。

 

◎ 参考文献

James S. Santangelo et al. (2022) Global urban environmental change drives adaptation in white clover. Science. 375: 1275-1281

https://doi.org/10.1126/science.abk0989

保谷 彰彦(ほや あきひこ)
文筆家。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。専門は植物の進化や生態。主な著書に新刊『生きもの毛事典』(文一総合出版)、『ヤバすぎ!!! 有毒植物・危険植物図鑑』『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(共に、あかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)、『身近な草花「雑草」のヒミツ』(誠文堂新光社)。中学校教科書「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」掲載中。
https://www.hoyatanpopo.com