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阪神淡路大震災の引き金は有馬温泉の地下で起きた洪水だった?!

(2024年9月17日)

 地震の発生を予知できるようになれば、被害の軽減に役立てられるでしょう。残念ながら地震の予知技術は未だ確立されてませんが、地震の発生メカニズムの解明が進めば、予知技術の確立に近づくと期待されます。そこで、この程発表された1995年の兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)の引き金に関する筑波大学の研究を紹介します。

 日本列島は海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込んでいる場所(沈み込み帯)にあり、海洋プレートから絞り出された水によってマグマが発生しています。これにより日本には数多くの火山が存在する一方で、海洋プレートの沈み込みが浅い場所では、プレート由来の水がマグマを作ることはなく、そのまま上昇して温泉として地表にあらわれることがあります。兵庫県の有馬温泉は、そうしたプレート由来の水が湧き出た温泉だと考えられていますが、これまで有馬温泉の温泉水に海洋プレート由来の水が含まれている証拠は得られていませんでした。

海洋プレート由来の水によってマグマが発生し、火山が形成されます。これに対して火山よりも沈み込みが浅いところでは、海洋プレート由来の水はマグマを発生させることなく、そのまま上昇して温泉として地上にあらわれることがあります。
(画像提供: 筑波大学 山中研究室)

 そこで筑波大学生命環境系の山中勤教授らの研究グループは、有馬温泉の7つの泉源において、酸素と水素について同じ元素でも質量が異なる安定同位体の含有比率(同位体比)を測定しました。そして海洋プレート由来の水の同位体比を計算で推定し、比較したところ、有馬温泉の直下、震度67.4kmの同位体比と一致。雨水に由来する水を除く温泉水はプレート由来の水であることを突き止めました。

 さらに研究グループは、水素と酸素の同位体比と塩素イオン濃度に極めて高い相関関係があることに注目。過去の塩素イオンのデータから温泉水中のプレート由来の水の割合を求めたところ、1940年代に始まった掘削による温泉開発以降、一貫してプレート由来の水の割合は減り続けてきたのに、震災の前年から突発的に増加していることが明らかになりました。その原因は明らかになっていませんが、有馬温泉の直下に洪水と言えるほどの大量の水が供給され、断層の強度を低下させたことが、兵庫県南部地震の引き金となった可能性が示されました。

地下深部洪水と兵庫県南部地震の関係を示す模式図

原因についてはプレート由来の水の増加や、地下水の経路の目詰まりなどが考えられますが、未だ明らかになっていないものの、地震の前年からプレート由来の水の増加が明らかになりました。この地下の洪水が兵庫県南部地震を引き起こした可能性が示唆されました。
(画像提供: 筑波大学 山中研究室)

 

 類似した地震は長野県の松代温泉でも発生しており、1965年から1967年にかけて起こった群発地震に際して、海洋プレート由来と思しき大量の塩水が松代温泉から流出したとの記録が残されています。そのため研究グループは温泉水のモニタリングを続けることで、地下深くの洪水をいち早く検知し、地震の発生を事前に予測する道が拓けると期待しています。

 

【参考】

■筑波大学プレスリリース

有馬温泉直下の地下深部洪水が阪神淡路大震災を引き起こした可能性を発見

 

斉藤 勝司(さいとう かつじ)
サイエンスライター。大阪府出身。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。最先端科学技術、次世代医療、環境問題などを取材し、科学雑誌を中心に紹介している。