静電気がどこにどれくらいあるかを可視化する技術
(2023年3月01日)
冬場や乾燥した季節になるとドアノブなどに触れたとたん、指先にピリッと衝撃が走ることがあります。これは静電気の放電によるものです。静電気は金属や衣類などの電荷がプラスかマイナスに偏った状態になっているときに発生し、他の物体が近づいたり触れたりすると一気に放電します。
この静電気の帯電の分布を可視化する技術が開発されました。静電気を避けたり制御できるようになれば、静電気によるショックを防げるだけでなく、微細な塵が製品の歩留まりに影響を与える半導体などの精密部品の製造現場で役立ちます。
千葉大学大学院工学研究院の宮前孝行教授と同院融合理工学府博士前期課程の井坂友香氏の研究グループは、このたび電気を通さない絶縁体のポリプロピレンに帯電している静電気を、高い空間分解能で可視化する技術を開発しました。
研究グループは以前から「和周波発生分光法(SFG分光法)」という技術を使って材料の表面界面を研究していました。この分光法は材料に赤外光と可視光の2種類のレーザーパルスを同時に当てると発生する光(SFG光)の周波数の状態から表面界面での分子の配向(向き)を知るものです。また、この光の強度は材料表面界面に存在する電界の強度によって変わるため、電荷の情報を知ることが出来ます。
今回この技術を使ってポリプロピレンの表面に帯電した分子の状態を調べ、静電気の分布と強さを捉えました。ポリプロピレンが帯電すると電荷の強さに応じてSFGスペクトル強度が強くなっていくのを観測することができました。この現象を電界誘起効果といいますが、静電気が作り出す電界によってこの効果を確認できたのは世界初といいます。
また、特殊なアクリル樹脂の表面に、有機薄膜(ステアリン酸アミド)を塗布して帯電させてみたところ、電界は有機薄膜だけでなくその下のアクリル樹脂にまで拡がり、時間がたっても残っていることもわかりました。
このような実験の結果、材料表面の小さな領域にある静電気の分布を高い分解能で可視化できることがわかりました。
今回の知見は、半導体・フィルム製造など極度にクリーンな環境が求められる工場で役立つ他、静電気が起こるメカニズムなど静電気の基本的原理の解明にもつながっていくと考えられています。
【参考】
■千葉大学プレスリリース
・「目に見えない静電気を分子レベルで観測することに成功~材料固有の帯電特性の解明に前進~」
サイエンスライター・白鳥 敬(しらとり けい)
1953年生まれ。科学技術分野のライター。月刊「子供の科学」等に毎号執筆。
科学者と文系の普通の人たちをつなぐ仕事をしたいと考えています。