食べられる材料だけで培養肉を作ることに成功
(2022年4月19日)
少子高齢化の日本では近い将来、人口減少時代に突入すると言われていますが、世界に目を向けると人口は増加し続けています。さらに新興国の経済発展によるライフスタイルの変化もあって、今後、地球規模で食肉の需要は増加していくと指摘されています。かといって、地球温暖化対策が喫緊の課題になっている以上、炭素を蓄積した森林を伐採して、新たに牧場を造成することは難しく、環境に負荷を与えずに食肉生産を増やしていくことは不可能と言っても過言ではないでしょう。
こうした問題を解決するため、家畜を飼育することによる食肉生産に代わって「培養肉」の生産が模索されています。培養肉は、その名が示す通り、ウシやブタなどの家畜の細胞を培養して得られる肉を指し、従来の畜産のような広い土地を必要とせず、厳格な衛生管理も可能なことから、将来的には食肉生産の一翼を担うようになると期待されています。
そのため複数の研究機関やベンチャー企業によって培養肉の実用化を目指して研究が進められています。東京大学大学院情報理工学系研究科の竹内昌治教授らと、日清食品ホールディングス株式会社の共同研究グループも、そうした培養肉の実現を目指した研究を進めていますが、今回、食べられる材料だけで培養肉を作る研究に取り組みました。
食肉として成り立つ大きさの培養肉を作るには、細胞に加えて、細胞を培養するための栄養成分、立体構造の骨組みとなる足場材料が必要です。従来、竹内教授らの研究グループは足場材料に食用ではない研究用の素材を用いていましたが、今回の研究では栄養成分となる食用血清、足場材料となる食用血漿ゲルを独自に開発。これらを用いてウシの筋細胞の培養に試み、産学連携の研究グループとしては日本で初めて食べられる材料だけで培養肉を作製することに成功しました(図1)。
食べられる培養肉を実現したことで、3月には研究関係者による試食会も実施されました。過去の研究では培養肉を作製できても、実際に人間が食べて、その味を評価する食味試験を実施することはできませんでしたが、竹内教授らの研究によって食べられる培養肉が実現したことで、今後は味、香り、食感などの美味しさを高める研究開発にも着手できるようになり、培養肉の実用化に向けて研究が加速すると期待されています(図2・3)。
【参考】
・日本初!「食べられる培養肉」 の作製に成功 肉本来の味や食感を持つ 「培養ステーキ肉」 の実用化に向けて前進
斉藤勝司
サイエンスライター。大阪府出身。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。最先端科学技術、次世代医療、環境問題などを取材し、科学雑誌を中心に紹介している。