[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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わかる科学

GPSが使えない地下や水中でも位置を把握できる!
宇宙線ミュー粒子を利用したナビゲーション技術を開発

(2023年7月15日)

 

 スマホやカーナビなどのGPS機能を搭載した機器が普及したことで、私たちは地図を読んで自分の位置を確認することなく、速やかに目的地に向かうことができるようになっています。ただし軌道上を周回する人工衛星と情報のやり取りができない地下、建物内、水中では、GPSを利用して自分の位置を把握することはできません。

 そこで東京大学国際ミュオグラフィ連携研究機構は透過性の高い素粒子のミュー粒子を利用することにしました。同大学の生産技術研究所、日本電気株式会社、株式会社テクノランドコーポレーション、イタリアのカターニア大学、イギリスのダラム大学、中国の北京大学との共同研究に取り組み、GPSが機能しない地下などでも利用できるミュー粒子を用いたナビゲーション技術(muPS)の開発に成功しました。

 ミュー粒子は、超新星爆発などの非常に大きなエネルギーを生じる現象によって加速された宇宙線が地球に降り注いだ際、大気中の元素の原子核に衝突して発生する素粒子の一種です。人工の建物はもちろんのこと、大きな山さえも光に近い超高速で貫通するため、これまでにも火山中のマグマの動きや、エジプトの古代遺跡ピラミッドの内部構造を調べるのに利用されてきました。

 ミュー粒子は地下空間にも届くことから、研究グループは基準となる地上局と地下の受信機の間をミュー粒子が飛ぶ時間を測定することにより、地上局と地下受信機の距離を正確に決定できると考えました。ミュー粒子の速度は屋外、屋内、地上、地下で変わることはないため、地上局を4か所以上設置しておけば、地上局を通って地下受信機に届く時間から地下受信機の位置を割り出すことができるはずです(図)

 

図 宇宙線のミュー粒子を利用したナビゲーションのイメージ。 © 2021 Hiroyuki Tanaka/Muographix

 

 ただし、ミュー粒子は非常に高速であるため、地上局と地下受信機それぞれの時計がずれていたら、正確にミュー粒子の移動時間を測定できず、そこから導き出される位置情報にも狂いが生じます。これまでは地上局と受信機をケーブルで結んで、それぞれの時刻を同期させていましたが、ケーブルで結ばれていては移動体に利用することはできません。この問題を解決するため、研究グループは地下受信機に高精度の時計を搭載。ケーブルで結ぶことなく、ミュー粒子の移動時間を正確に測定できるようにしました。

 実際にミュー粒子を利用して地下受信機の位置の測定を試みたところ、スマホやカーナビに使われているGPSより高い精度で位置を把握できることが確かめられました。さらなる精度向上には地下受信機に搭載する時計の精度を高めていくことが求められますが、ミュー粒子を利用して位置を把握できることが確認でき、将来的に建物内、地下、水中でもGPSで自分の位置を割り出しながら自律的に動くロボットを使えるようになると期待されています。

 

【参考】

東京大学プレスリリース 

・論文:First navigation with wireless muometric navigation system (MuWNS) in indoor and underground environments

斉藤 勝司(さいとう かつじ)

サイエンスライター。大阪府出身。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。最先端科学技術、次世代医療、環境問題などを取材し、科学雑誌を中心に紹介している。