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SNSに投稿された写真をきっかけに新種のダニを発見

(2021年4月15日)

 生物の新種が発見される過程は様々で、研究者自らが自然に分け入って新種の生物を見つけることがあれば、博物館に収められている標本を改めて調べてみたら実は新種だったということもありますが、この程、法政大学自然科学センター・国際文化学部の島野智之教授が新種として報告したダニは、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のツイッターに投稿された写真をきっかけに発見されました。

 ツイッターを見ていた島野教授は、千葉県松戸市のアマチュア・カメラマンが千葉県内の銚子外港の岸壁で撮影して、ツイッターに投稿していた写真に注目。それがハマベダニ属のダニであることに気付きました。

 島野教授らの研究グループは2019年にハマベダニ属の新種を北海道で発見していました。この属のダニにとって北海道は南限の分布で、その後も北海道よりも南では発見されていませんでした。その上、ツイッターに投稿された写真のダニがこれまでに知られている種と微妙に異なることもあり、島野教授は新種のダニではないかと考えました。

 島野教授はツイッターを介して、写真の撮影者に連絡を取り、ダニを撮影した場所を教えてもらい、後日、実際に銚子外港に出かけて目当てのダニを採集しました。共同研究者のオーストリアのグラーツ大学動物学研究施設のトビアス=プフィングスティル博士と詳しく調べた結果、ハマベダニ属の新種であることを確認しました。

ハマベダニ属のダニは豊かな自然を好むため、漁港のような人工の環境で発見されることは珍しく、銚子の豊かな海岸環境が新種のチョウシハマベダニを育んでいたと考えられています。
(写真:©島野智之 撮影(A), ©根本崇正 撮影(B,C,D,E), ©Species Diversity誌)

 新種であることを確認したら学術誌で発表するため、属名と種名(種小名)を列記した学名が付けられます。属名は以前から「Ameronothrus(アメロノトルス)」と決まっているため、新たに種小名を付けることになり、島野教授らは、新種発見のきっかけがツイッターであることから、種小名を「twitter(ツイッター)」にして、「Ameronothrus twitter(アメロノトルス・ツイッター)」という学名で報告しました。また、日本国内で使われる和名については発見地の銚子外港にちなんで「チョウシハマベダニ」と名付けました。

 ツイッターを介して新種が発見されるのは、このチョウシハマベダニが2例ですが、1例目はデンマークの生物学者による菌類の発見であるため、動物の新種としては世界初の事例です。ツイッターのようなSNSを活用すれば、一般ユーザーが撮影した写真を、生物学の専門家が見る機会は増えるでしょうから、今後、SNSへの写真の投稿をきっかけに新種の発見が増えるかもしれません。

 

【参考】

法政大学島野教授がTwitterの一般ユーザ投稿写真から偶然新種の海岸性ダニ類を発見.学名はTwitterに由来

Ameronothrus twitter sp. nov. (Acari, Oribatida) a New Coastal Species of Oribatid Mite from Japan

斉藤勝司

サイエンスライター。大阪府出身。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。最先端科学技術、次世代医療、環境問題などを取材し、科学雑誌を中心に紹介している。