触媒など使わず光と電気で光学活性高分子を合成―レーザービームで「絶対不斉電解重合」に成功:筑波大学
(2016年10月18日発表)
筑波大学は10月18日、触媒などを使わず光と電気だけで光学活性な高分子を合成することに成功したと発表した。
円偏光パルスレーザーと呼ばれるらせん状に回転するレーザービームを照射しながら重合(電解重合)を行う新しい光学活性高分子(旋光性のある高分子)の合成法を開発し、右回りあるいは左回りのらせん構造を持つ光学活性な高分子を選択的に合成することに成功した。
らせん構造は、高分子の構造の一つで、たんぱく質や核酸などに代表される生体高分子の機能と密接に関係していることが広く知られている。らせん構造には、右回りと左回りが存在し、今回の成果は、どちらかを選択的に合成できる新しい方法を開発したもので、らせん光を用いた「絶対不斉電解重合」という。
不斉とは、分子の立体構造が右手と左手のように重ね合わせることができない非対称な構造のことで、化学的な方法を用いずに、電気や光、重力、遠心力といった物理的な手段で右手型あるいは左手型の分子を作り出す合成法を絶対不斉重合と呼ぶ。らせん光を用いた絶対不斉電解重合に成功したのは世界でも初めてという。
開発したのは、数理物質系の後藤博正准教授で、科学研究費補助金で実施した「液晶・光・相転移を用いた電解重合による機能性高分子の開発」で得た成果。
電解重合は、電極の表面で電子が奪われるかあるいは電子を受け取って電気化学的に重合反応が行われる高分子合成法のことで、合成したのは有機物でありながら電気が流れる導電性のポリチオフェン。右回りあるいは左回りの円偏光パルスレーザービームを溶媒に溶かした原料モノマーに照射しながら電解重合を行うことにより、照射する光に応じて右回りあるいは左回りのらせん構造を持つ光学活性な高分子が選択的に合成できることを実証した。
同大学は「光でさまざまな光学活性物質を合成できることを示唆しており、食品や医薬品の合成にも貢献できる可能性を持っている」といっている。