少量の水と油で超低摩擦表面―食虫植物に学び実現:産業技術総合研究所
(2021年12月15日発表)
(国)産業技術総合研究所は12月15日、食虫植物のウツボカズラがつぼ型捕虫器に虫を滑り落として捕らえる仕組みを真似て超低摩擦表面を開発したと発表した。大量の潤滑油(じゅんかつゆ)や高価な潤滑剤でしか実現できなかった摩擦係数0.01以下の状態を、少量の植物油と水で実現した。自動車や産業機械などに応用すれば、摩擦によるエネルギー損失を減らすことができ、CO2削減にも貢献すると期待している。
ウツボカズラのつぼ型捕虫器は開口部の表面が分泌液で覆われており、虫が滑り落ちやすくなっている。産総研はこの仕組みに注目、人工的に同様の表面を再現することを目指した。
実験では、無機・有機の両材料が結合しやすくなるようシランカップリング剤と呼ばれる化合物でガラス表面を処理、水ははじき油にはなじみやすくした。このガラス表面に潤滑油としてオレイン酸を塗布、その上に水を載せたところ今までにない滑りやすい表面が実現した。直径3mm、長さ2cmのガラスピンを一定の力で押し付けながら滑らせる実験では、摩擦係数が0.015と極めて小さくなり、表面処理をしていないガラスに比べ摩擦係数は42分の1にまで減少した。
従来、潤滑油を表面に濡(ぬ)れ広がらせるには親水親油性の表面が用いられてきたが、この方式では潤滑油層上に水を保持することが難しく、大量の潤滑油が用いられてきた。これに対し新技術は、水よりも潤滑油が濡れ広がりやすい表面状態を生み出したことで水を潤滑油の上に載せられるようにし、少量の複数流体を使うことで超低摩擦状態を実現した。
産総研は「自動車・輸送機器、医療機器、住宅・建設等に幅広く応用することで、低摩擦化と同時に低コスト・低環境負荷が期待される」として、企業との連携を進めて用途開発に取り組む。