新型コロナ禍でも1年後にアスリートの心理不調は改善―中度・重度のうつ不安症には専門相談窓口の支援が必要:国立精神・神経医療研究センター/筑波大学
(2022年1月18日発表)
(国)国立精神・神経医療研究センターの小塩靖崇(おじお やすたか)氏らと筑波大学の研究グループは1月18日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大前と1年後の2回、男子ラグビー選手に実施したメンタルフィットネスの調査・分析結果を公表した。心理不調を抱える選手が約32%から15%に半減していた。一方で約10%の選手には中度・重度のうつ・不安症の疑いがあり、こちらは前後でほとんど変化がなかった。選手の心理面をケアするために、欧米並みの専門家の支援システムが必要としている。
新型コロナの感染拡大の最中に、著名な選手のメンタルヘルス不調や治療経験の告白が度々伝えられた。欧州諸国でもロックダウン(都市封鎖)中に不安症やうつ病が疑われる選手の割合が高かったことが、国際スポーツ組織により報告されている。
そこで研究グループは、同センター倫理委員会の承認を受け、日本ラグビーフットボール選手会と共に、男性ラグビー選手にウェブによるアンケート方式で感染拡大前(2019年12月〜2020年1月)と1年後の感染拡大中(2020年12月〜2021年2月)の2回、メンタルヘルス調査を実施し、分析した。同センター倫理委員会の承認を受けた。
感染拡大前の調査では251人が回答し、心理的ストレスが32.2%(81人)、うつ・不安症の疑いが4.8%(12人)、重度のうつ・不安症の疑いが5.2%(13人)だった。重度は社会的支障をきたすレベルである。
1年後の感染拡大中の調査では227人が回答し、心理的ストレスが15.0%(34人)と半減、うつ・不安症の疑いは6.7%(15人)、中等度・重度のうつ・不安症の疑いは3.5%(8人)だった。
比較すると、軽度の心理的ストレスの経験者が明確に減少した一方で、うつ・不安症あるいは重度のうつ・不安症の疑いのある選手はほぼ同じだった。
この1年間にリモートワークが盛んになり、イベントのオンライン参加も可能になった。休息やリフレッシュ機会も増大するなど、コロナ禍での生活環境が大きく変化したことが、軽症群の改善に働いたとみられる。中等度、重度の一群は約10%存在していた。
この結果から、研究グループは国内のスポーツ組織やチームに対し、メンタルヘルス専門家の相談窓口などのケアシステムの導入が必要だと指摘している。