蚊による感染症抑制に新物質―昆虫ホルモン作りかく乱:筑波大学ほか
(2022年2月16日発表)
筑波大学、東京薬科大学、理化学研究所の研究グループは2月16日、デング熱や黄熱などの感染症の拡大を抑える新薬剤を発見したと発表した。感染症を媒介するネッタイシマカの成長に欠かせない昆虫ホルモンを作る酵素の働きを分子レベルで解明、その働きを阻害する化学物質を突き止めた。この成果をもとに、さらに強力な成長阻害効果を持つ実用的な薬剤の開発に取り組む。
マラリアやデング熱など、蚊が媒介する感染症による死者は、世界で年間70万人にものぼる。ただ、既存の殺虫剤には抵抗性を示す蚊も生まれており、作用の仕組みが異なる複数の薬剤を回しながら使用して薬剤抵抗性の出現を回避する必要があるとされている。
研究グループは、新薬剤の候補として昆虫の脱皮と変態を支配している昆虫ホルモン「エクジステロイド」の働きをかく乱する物質に注目。まず、このホルモンが蚊の体内で作られる際に働く酵素「Noppera-bo(略称Nobo)」に焦点を当てて詳しく解析、その酵素活性を阻害する薬剤の探索を進めた。
その結果、植物に含まれる二次代謝産物「フラボノイド化合物」にNoboの働きを阻害する活性があることが分かった。さらにX線結晶構造解析によってネッタイシマカのNoboたんぱく質とフラボノイド化合物がどのように相互作用するかなどを詳しく解析した結果、デスメチルグリシテインと呼ばれるか物質がネッタイシマカの脱皮・変態を極めて効果的に抑制することを突き止めた。
実際にこの化合物をネッタイシマカの幼虫に用いたところ、0.001%という低濃度でも幼虫の脱皮・変態に欠かせない昆虫ホルモンの酵素「Nobo」の働きを抑えて、幼虫の発育を抑えられることが分かった。蚊の幼虫に対する発育阻害効果を持つ化学物質はこれまでも知られていたが、その分子メカニズムはこれまで未解明だった。
研究グループは、「より高い活性を持つ化合物の開発や、他の化学構造を持つ高活性化合物の探索を継続する必要がある」として、今後さらに実用的な昆虫成長抑制剤の開発に取り組む。