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資産運用のための人工知能の「強化学習システム」を開発―拡張性や再利用性が向上し、検証実験で収益率の高い成果を得る:筑波大学

(2022年2月18日発表)

 筑波大学システム情報系の田中文英准教授の研究グループは2月18日、資産運用(ポートフォリオ管理)に適した人工知能(AI)の「マルチエージェント強化学習システム」(MSPM)を開発したと発表した。新システムを、過去8年間の米国株式市場データを使って検証したところ、従来の手法と比べて高い収益率が得られた。

 資産運用は、預貯金や株式、債権、投資信託などの金融商品を利用して、手持ちの資産を効率的に増やすこと。運用には当然のことながら、得られる利益の「リターン」と振れ幅の「リスク」があり、高い収益率を得るのは一般にはなかなか難しいこととされている。

 これまでは資産運用の責任者が、毎日の新聞記事やニュース、会社の財政状況を表す貸借対照表(バランスシート)などの情報を集め、金融商品の組み合わせ(ポートフォリオ)を作成していた。

 最近はコンピューターを使った深層学習関連の進歩によって、運用責任者に代わって人工知能(AI)のエージェント(ソフトウエア)が代行できるようになった。

 それでもAIエージェントは拡張性や再利用性に弱点があった。資産の変動や異種データが新たに加わるという現実の環境に即応して、システムを素早く再構築することが思うようにできなかった。

 研究グループが開発したのは、資産運用に適したマルチエージェント強化学習システム(MSPM)。

 強化学習とは、AIシステム自身が情報を取得しながら試行錯誤し、最適なシステム制御を実現する機械学習の一つである。

 MSPMは2つの機能(モジュール)を持つ。一つは個々の資産ごとに用意される進化型の機能、EAM(Evolving Agent Module)で、新聞のニュースなどのさまざまな金融関連情報を扱えるエージェント。もう一つは、複数のEAMからの入力をもとに意思決定を戦略的に行う機能、SAM(Strategic Agent Module)で、再利用ができ、資産運用の過程での拡張性にも優れている。

 先進的な機能を備えたMSPMが実戦でどの程度使えるかを調べるため、米国株式市場データ(Nasdaq)で既存の手法との比較を2種類のポートフォリオで実施した。

 その結果、収益率で既存の手法を上回る結果が得られた。また4種類のポートフォリオでMSPM内のシステム検証をしたところ、進化型の機能EAMを働かせると収益率が大幅に向上することも確認できた。

 今後は、資産運用の際の意思決定の基礎研究を進めてMSPMをより高度化し、高性能な資産運用システムに育て上げることにしている。