ミャンマー最大のポパ火山のマグマ生成メカニズムを解明―今後も噴火する可能性が高い活火山と警鐘:国立科学博物館ほか
(2022年3月10日発表)
ポパ火山 (提供:国立科学博物館)
(独)国立科学博物館地質研究部の佐野貴司鉱物科学研究グループ長と京都大学霊長類研究所などの国際研究グループは3月10日、ミャンマー最大のポパ火山が約33万年前に活動を始めた活火山であり、さらに溶岩の化学分析の結果、特殊な火山岩でできていることを発見したと発表した。今後も噴火する可能性が高いと警告している。愛媛大学大学院理工学研究科、慶應義塾大学文学部自然科学部門、(国)産業技術総合研究所断層・火山研究部門、ミャンマーのメイティーラ大学、マグウェイ大学、マンダレー大学との共同研究による。
ミャンマーは地下深部にベンガル湾から沈み込んだインドプレートがあり、日本列島と同じように火山噴火と地震の多発地帯にある。ここ数年の調査では、中央部に第四期(最も新しい地質年代)のポパ火山、モンユワ火山、シング火山の3つが知られている。ポパ火山は1万年以内に噴火しており、これからも噴火の可能性のある活火山だと分かってきた。
インドプレートの沈み込みがマグマを作り、マグマが度々噴火することで島弧(とうこ)火山と呼ばれる成層火山が作られている。成層火山は、同じ火口付近から何度も噴火を繰り返すことによって溶岩や岩石、火山灰が層状に積み重なり、円錐(えんすい)状に作られた。
ポパ火山は約8,000年前に噴火した活火山であることは知られていたが、なぜ成層火山ができたのかは不明だった。そこで地質調査と火山岩採取で、全岩化学分析、鉱物化学分析、ストロンチウム・ネオジム同位体比分析を実施した結果、成層火山の主要部分は「アダカイト質」という特殊な火山岩から作られていることが分かった。
アダカイトとは、普通の島弧火山の岩石と比べてストロンチウム・イットリウム(Sr/Y)比が高い特徴がある。地球深部に沈み込んだ海洋プレートが溶けてできるとみられ、西アリューシャン列島やアメリカ西部のセントへレンズ火山も同じタイプ。
ポパ火山のアダカイト質マグマは、他と比べて低いネオジム同位体比(143Nd/144Nd)を持つ特殊な火山岩だった。水を含んだマントルが融けてできたマグマが、地下深部のマグマ溜まりで分化してできたものと分かった。
アダカイトマグマのでき方には、「海洋プレート溶融説」や、マントルが溶融したマグマが地下深部で温度が低下して化学成分や粘性などの性質が変化する「分化説」などがあるが、決着はついていない。
国際研究グループはこのうちポパ火山について「分化説」を主張しており、ミャンマーの火山からは次に起こる噴火もアダカイトマグマが噴出する可能性が高いと見ている。
ミャンマー北部には形成年代の不明な火山が複数あり、今回の調査によって他の活火山の有無を調べる必要が増しているという。