人口減少による土地放棄がチョウ類に与える影響を調査―低い気温を好む草原性のチョウ類の減少に拍車:国立環境研究所ほか
(2022年3月22日発表)
土地放棄の影響が検出された種の例。
左上:キアゲハ、右上:クジャクチョウ、左下:コヒオドシ、右下:ツバメシジミ
©国立環境研究所(撮影:深澤 圭太)
(国)国立環境研究所と東京大学、東北大学などの共同研究グループは3月22日、人口減少に伴う里地里山の土地放棄がチョウ類に与える影響を調査した結果、人口減少で多くの種が減少し、とりわけ低い気温を好む草原性のチョウ類が減少しやすいことが分かったと発表した。人口減少時代の生物多様性変化を探る先駆的な成果が得られたとしている。
里地里山は耕作地、雑木林、草地など多様な景観を含み、最終氷期(7万年~1万年前)に広がっていた草原性の生物の逃避地として現在まで高い生物多様性を有している。この高い多様性は草刈りなどの人間活動によって維持されてきたが、近年人口減少に伴う土地放棄によって多様性は失われつつあり、多様性を効果的に保存するための方策や実態の解明が求められている。
研究グループは今回、廃村に着目、日本各地から34の廃村を選定し、それに近接する現居住集落のチョウ類生息環境や生息状況などをそれぞれ調査、比較することにより、土地放棄がチョウ類に与える影響を探った。
さらに、得られたデータを基に、土地放棄でチョウ類のある種が減少する状態をネガティブな影響、増加する状態をポジティブな影響とし、影響の大きさが1kmメッシュで分かる地図を作成した。
これらの調査・研究の結果、出現した43種のチョウのうちキアゲハ、クジャクチョウ、コヒオドシ、ツバメシジミなど13種で土地放棄のネガティブな影響が検出された。これに対してポジティブな影響の検出はアオスジアゲハ、イシガケチョウ、イチモンジチョウの3種にとどまった。
これにより、土地放棄で多くの種が減少すること、なかでも低い気温を好む草原性のチョウ類が減少しやすいことが判明した。
種ごとの土地放棄の影響と年平均気温の影響については明瞭な正の相関(そうかん)が認められた。寒冷地に適応した種は地球温暖化に対して脆弱(ぜいじゃく)であり、将来の人口減少に伴う土地放棄の増加は、同時に進行する地球温暖化による影響に追い打ちをかけるかたちでチョウ類を衰退(すいたい)させることが今回初めて示された。
農山村景観の保全は温暖化に対して脆弱な種の生息地を提供することになるため、気候変動下の生物多様性保全においても農山村景観の保全は重要と指摘している。