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夏季五輪マラソンにおける暑熱の影響と適応策を評価―10月開催は効果大、深夜早朝開催の効果は限定的:国立環境研究所

(2022年4月7日発表)

 (国)国立環境研究所の研究チームは4月7日、夏季オリンピックでマラソン選手が曝(さら)される暑熱環境と、その適応案を調べたところ、現状のホスト都市候補のうち、最大で27%の都市が危険な暑熱環境になること、適応策として、10月の開催や国内複数都市での開催による効果が大きいことが明らかになったと発表した。

 地球温暖化の下で屋外スポーツの競技者が受ける暑熱の影響増大が懸念されている。2019年にカタールのドーハで開かれた世界陸上競技選手権大会では気温33℃・湿度73%に見舞われた女子マラソンで68人中40人の途中棄権が出た。

 2021年の東京オリンピックのマラソンは会場を札幌に移して開催されたが、比較的暑熱リスクが高い天候に見舞われ、男子マラソンで3割近い棄権者が出た。

 このため、暑熱に対する対策は大きな課題になりつつあるが、地球温暖化が進行した場合に,屋外スポーツに対してどのような暑熱影響が発生するのか、また、どのような対策が有効であるかについて、これまで定量的な評価はほとんど行われていない。

 研究チームは今回、夏季の代表的なスポーツイベントであるオリンピックのマラソン競技を取り上げ、①温暖化進行下で選手はどのような暑熱環境下に置かれるか②危険な暑熱環境に曝さないためにはどのような対策が有効か、を検討した。

  まず、ホスト都市候補として25カ国の70都市を評価対象とした。マラソンの暑熱環境を評価するには暑熱環境が1日の中でどのように変動するのかを推定する必要がある。研究では、気候モデルによる計算から得られる1時間毎のWBGTの値を算出した。

 WBGTは人体の熱収支に影響する湿度・輻射熱(ふくしゃねつ)・気温から計算される指標。このWBGTを良好・注意・警告・中止の4つのレベルに分け、それを暑熱環境の評価基準とした。地球温暖化の進行度合いは4種類のRCPシナリオ(温室効果ガス等の大気中の濃度が将来どうなるかを想定したシナリオ)を参照した。

 検討の結果、温暖化が進行するに伴ってマラソンを開催するべきではない暑熱環境の都市が増え、そうした都市は最大で27%に達した。対策として近年のオリンピックで検討・実施された①22時~翌6時に開催②10月に開催③国内の都市すべてを開催地候補とする④それらすべてを組み合わせる、の4つのオプションを想定し効果を評価した。

 その結果、単独の適応策としては10月開催の効果が最も大きく、現在多くのイベントで一般に行われている深夜・早朝開催の効果は限定的であることが明らかになったという。