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三元系高分子太陽電池の劣化抑制メカニズムを解明―電子スピン共鳴による測定手法を開発し成果:筑波大学ほか

(2022年4月20日発表)

 筑波大学と広島大学の共同研究グループは4月20日、次世代の高効率太陽電池として期待されている三元系高分子太陽電池の安定性向上メカニズムを分子レベルで解明することに成功したと発表した。劣化要因を解析する新たな測定手法を開発した成果で、今後、低コストで高効率な長寿命の高分子太陽電池の研究開発促進が期待されるという。

 三元系高分子太陽電池は、シリコンの代わりに軽量で柔軟な高分子を素材とし、印刷手法で安価に作れるフレキシブルな太陽電池の一種。p型半導体材料とn型半導体材料から成る二元系太陽電池にp型またはn型の第3成分を加えると光変換効率が飛躍的に向上することが分かり、次世代の太陽電池として近年活発に研究開発が進められている。

 ただ、劣化対策が大きな課題の一つで、従来の研究手法では劣化要因を分子レベルのミクロな視点から直接的に解明することはできなかった。

 研究グループは今回、電子スピン共鳴と太陽電池の性能を同時に計測できる世界で初めての手法を開発した。電子スピン共鳴は電子のスピンに磁場と電磁波を加えると得られる電磁波(マイクロ波)の共鳴吸収を捉(とら)える手法で、非破壊、高感度,高精度な材料の研究に用いられている。太陽電池の構造をこの電子スピン測定用に独自に作製し、電子スピン共鳴と電池性能の同時計測を可能にした。

 計測の結果、太陽電池が動作している状態で太陽電池の内部の電荷状態の変化が太陽電池の性能と強く相関していること、太陽電池の性能の変化は太陽電池の構成材料である光活性層と電子輸送層の電荷状態の変化に由来すること、3種類の半導体材料のうちn型半導体を活性層に添加することで光照射による電荷の蓄積が抑制され、太陽電池の劣化が抑えられること、などを明らかにすることに成功した。

 今回の手法により、太陽電池の劣化を防ぐために必要な、これまでにない分子レベルの情報を提供することが可能になったとしており、三元系高分子太陽電池の研究開発の効率化が期待されるとしている。