気候変動が熱帯雨林の季節変化を狂わせ、開花・結実を減少させる―フタバガキ科の多くの種で、将来の開花率が半分以下になると予測:東京都立大学/九州大学/広島大学/農業・食品産業技術総合研究機構
(2022年4月22日発表)
東京都立大学の沼田真也教授、九州大学の佐竹暁子教授、広島大学の保坂哲朗准教授、(国)農業・食品産業技術総合研究機構の櫻井玄上級研究員らの研究グループは4月22日、将来の気候変動が東南アジア熱帯雨林の樹木の開花と結実を減少させる可能性があると発表した。
インドネシアやマレーシアなどの東南アジア熱帯雨林では、フタバガキ科を中心に様々な樹種が数年に一度、一斉に開花し、実を付ける独特の現象がみられる。熱帯特有の繁殖リズムでフェノロジーと呼ばれる。気温や降雨と密接に関連しているようだが実態は不明だった。
研究グループは、マレーシア森林研究所に保存されている1970年代からの樹種210種類の開花と結実の貴重な観察記録をデータ化した。数理モデルと複数の「気候変動シナリオ」を使って、気候変化が熱帯雨林の開花と結実フェノロジーにどんな影響を与えるかを調べた。
開花には季節性があり、4月と10月がピークになる。年変動も大きく、1970年代と比べると2000年代には開花の頻度が低下していた。
フタバガキ科95種を6つの集団に分類し開花を調べた結果、「乾燥に応答」した集団が34種、「乾燥、低温に応答」した集団が55種あった。
温暖化予測に使われる代表的な4つの「気候モデル」のうち2つを使って開花フェノロジーを予測したところ、「乾燥、低温に応答し開花」する集団では開花の確率が大幅に低下することが分かった。
さらにこのモデルで、東南アジア熱帯季節林気候と熱帯多雨林気候を含む5カ所で「開花季節」と「開花確率」を、過去(1976年-1996年)と将来(2050年-2099年)で計算したところ、いずれの地域でも同様の傾向がみられた。将来の季節の開花パターンと過去の観察記録によるパターンが一致した。
この数理モデルは東南アジアの広い地域に適用できるとみられる。熱帯植物の多くは長い間、環境変動が少ない状態で進化してきたため、温帯種や北方種よりも気候変動には敏感に反応していると考えられる。
研究の結果、気温が1.2℃上昇する温暖化シナリオでは、フタバガキ科の57%の種で将来の開花確率が約50%低下するとの予想が出た。熱帯植物が気候変動による敏感さと脆弱さが裏付けられた。
今回開発されたモデルと方法論は熱帯雨林だけでなく、温暖化による地球規模での植物繁殖フェノロジーの将来予測にも役立つものとみている。