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世界最速の質量測定法を確立―重い元素の起源解明へ:理化学研究所/筑波大学ほか

(2022年4月28日発表)

 理化学研究所、筑波大学などの研究グループは4月28日、元素の質量を世界最速で決めることができる超高速質量測定法を確立、鉄より重く極短寿命の放射性同位体「パラジウム-123」の原子核の質量測定に成功したと発表した。138億年前に起きたとされる宇宙大爆発「ビッグバン」の後に生まれたさまざまな元素のうち、鉄よりも重く、その起源が未解明なままの元素誕生のナゾ解明に役立つという。

 研究グループには埼玉大学や東京大学のほか、中国、米国、韓国などの研究者も加わり、宇宙に存在する多様な元素の起源解明に取り組んでいる。鉄より軽い元素はビッグバン後に水素やヘリウムからどのようにして作られたかが理論的に解明されているが、鉄より重い元素については「r過程」と呼ばれる仮説はあるものの検証はされておらず、その起源は大きな謎となっている。

 そこで研究グループは、このr過程で生まれるとされる中間生成物「パラジウム-123」に注目、詳しく調べることにした。パラジウム-123は中性子が過剰で極めて不安定なため生成することが難しいうえ、仮に生成できても寿命が短いため、これまではr過程の進行に決定的な影響を与える質量の測定が困難で仮説検証の壁になっていた。

 これに対し今回、理研の粒子加速器「RIビームファクトリー」に新たに「稀少RIリング」を建設、粒子がリングを一周するのにかかる時間が粒子の質量のみに依存するようにし、質量を測定できるようにした。このリングに別の加速器で光速の70%まで加速したウランをベリリウムに衝突させて生成したパラジウム-123を入射する実験を試みたところ、100万分の1以下の精度でその質量を測定することに成功した。

 さらに、この質量が重元素合成に与える影響を宇宙物理計算によって調べると、質量数122の元素が123の元素に比べて過剰に生成されるという、太陽系で観測されている組成を初めて再現できたという。

 これらの結果から、研究グループは「超高速質量測定法が極短寿命なr過程核に対して極めて有効」とみており、今後宇宙での重元素の成り立ちを理解するのに大きく貢献すると期待している。