ペットボトルの原料製造時に出る分解しにくい廃水の効率処理に成功―別々の組成の廃水の一括処理によって、微生物の浄化能力が高まることを発見:産業技術総合研究所
(2022年5月13日発表)
(国)産業技術総合研究所・生物プロセス研究部門の黒田恭平研究員と成廣隆研究グループ長らは5月13日、ペットボトル原料の製造過程で排出される高濃度の有機性物質の廃水を、効率的に一括処理することに成功したと発表した。
ペットボトルの生産増加に伴って、材料のポリエチレンテレフタレート(PET)の製造は年々増え続けている。その原料は主に「高純度テレフタル酸」(PTA)と「テレフタル酸ジメチル」(DMT)の高濃度な有機溶液で、ペットボトル製造後に排出される際の浄化は厄介でコストもかかった。
PTAとDMTは別々のプラントで製造されてきたため、廃水処理も別個に実施されていた。特にPTAの廃水処理で排出される芳香族化合物を、嫌気性の微生物で分解する方法は難しく、時間がかかり、大きな処理施設も必要になることから、コストがかなり膨らんでいた。
研究チームはPTA廃水とDMT廃水の一括処理を試みたところ、浄化効率が大きく改善することを見つけた。芳香族化合物を主成分とするPTA廃水に、DMT廃水から出るメタノールやギ酸を加えることで、微生物群の浄化能力が活性化された。
実験室スケールの反応装置を作り、段階的に有機物の濃度を上げて、518日間の長期連続処理を実施したところ、廃水中に含まれる有機物の90%以上を安定して分解できた。
さらにギ酸を加えると、水素や二酸化炭素、メタノールなどからメタンガスを生成する微生物と、芳香族化合物を分解する嫌気性共生細菌も増加することが分かった。
PTA製造廃水にDMT製造廃水に含まれる成分を加えることで、芳香族化合物の分解に必要不可欠な嫌気性共生細菌とメタンガス生成微生物が活性化され、処理効率が数段高まった。
一括処理による分解メカニズムを掴むためDNAレベルで網羅的に解読した。その結果、廃水中に高濃度で存在する芳香族化合物(テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸など)を分解する微生物群の存在を見つけた。中でもシントロフォラブダス属に近い微生物は、新しい生物反応によってオルソフタル酸を分解していることが分かり、重要な新発見となった。
今後は、廃プラスチックや生物由来原料などから出る、性質の異なる廃水の一括処理に微生物学的な視点を取り入れ、環境調和型の廃水処理プロセス実現を目指す。