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イチゴの必要時・必要量の生産にむけた生育情報取得システムを開発―高品質で均質、計画的な出荷を実現し、農作物の高付加価値化を目指す:農業・食品産業技術総合研究機構

(2022年5月17日発表)

 (国)農業・食品産業技術総合研究機構は5月17日、イチゴの収穫日を高精度で制御するための中核技術となる「生育センシングシステム」を開発したと発表した。将来は需要時期に必要数量を収穫できるジャストインタイム(JIT)生産を実現し、高品質で均一なイチゴの計画生産と出荷の実現を図る。

 イチゴの全国の出荷量は年間約14万6,800t、卸売価格が約1,602億円(いずれも2020年)と、トマトやキュウリと肩を並べるほど大きな市場を占めている。しかし日持ちが悪く、常温だと2日程度しか持たないのが難点だった。

 クリスマス時期や年末年始の需要のピークに合わせた出荷ができ、またイチゴが多く出回るシーズンには切れ目のない安定的な出荷が求められていた。現状の生産は経験や勘(かん)を頼りに栽培と出荷量が調整されるため当たり外れが大きく、農家の所得にも影響が出ていた。

 必要時・必要量の生産には、収穫日を正確に予測する必要がある。そのために果実発育の開始タイミングとなる「開花日」や、発育速度に影響する「果実温度」などトータルな生育情報が欠かせない。

 研究チームは、気象環境を微妙に調整できる人工気象装置の中にイチゴを植えた。「RGB(カラー)画像カメラ」と、表面温度を可視化する「熱画像カメラ」を電動スライダーに載せ、イチゴ群の上を一定の速度で移動しながら撮影、計測する画像自動収集システムを開発した。これでRGB画像と距離画像が1株当たり約4.7秒の速度で取得できた。

 イチゴの開花日がいつになるかは、発育の開始タイミングを把握する上で欠かせない。開花日の特定には、得られた画像から開花状態の花を精度良く認識させ、ツボミから花弁が落下するまでの状態を、人工知能(AI)を使って多段階で学習させた。

 その結果、開花認識率は88.8%に大幅向上し、45個の花の開花日を誤差±1日以内で特定することができた。発育は温度の影響も受けるため、RGB画像で果実をAIで認識し、熱画像で±0.4℃以内の誤差で計測、表示できるようにした。今後は取得した果実温度を学習用データとして使い、収穫日を高精度に予測する生育期間予測AIを開発する。これらの技術を統合した生育センシングシステムを、人工気象装置で栽培するイチゴに試し、適用可能なことを確認した。

 最終的には施設環境制御システムと組み合わせ、JIT生産システムの実現を目指す。

 必要とされる時に、必要な数量だけ作るJITの発想は自動車メーカーの物づくりから生まれた。今やイチゴのような農産物でも、工業製品と同じように高品質で均質な計画生産や調整、出荷が実現できるとみており、農作物の高付加価値化を目指している。