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10兆分の1秒以下の構造変化を観測できる電子線装置開発―光エネルギー変換・光メモリーなどの研究開発促進へ:東京工業大学/筑波大学ほか

(2022年6月2日発表)

 東京工業大学と筑波大学、名古屋大学の共同研究グループは6月2日、光励起(ひかりれいき)で起きる10兆分の1秒以下の構造変化を観測できる世界で初めての電子線回折装置を開発したと発表した。光誘起相転移(ひかりゆうきそうてんい)と呼ばれる現象の解明を促す成果で、光合成をはじめとした光エネルギー変換の研究や次世代光メモリーなどの研究促進が期待されるという。

 光誘起相転移は、光を照射すると励起され、光学的、磁気的,あるいは電気的特性が劇的に変化する現象。変化の最初の部分はわずか10兆分の1秒(100フェムト秒)以下の超高速で起きる。

 この現象は光メモリーや光スイッチ、人工光合成の研究や応用開発に結び付くのではないかと注目され,近年研究熱が高まっている。しかし、超短時間に超高速で起きる現象を、試料を損傷せずに観測できる装置がこれまではなく、その開発が課題になっていた。

 長年、光誘起相転移材料の研究に取り組んできた研究グループは、カナダ・トロント大学の研究者と共同で、これまでに加圧電圧が比較的低い10万ボルトの電子線で種々材料の光構造変化を実際に捉えることに成功している。ただ、これは時間スケールが1~2兆分の1秒で、光誘起相転移機構の解明の鍵となる10兆分の1秒以下の変化を捉えることはできていなかった。

 研究グループは今回、電子線のパルス幅を圧縮できる小型のパルス電子線発生技術を開発し、加速電圧が10万ボルト以下の電子線を使って試料損傷を抑えながら10兆分の1以下の光構造変化を捉える装置を開発した。

 装置の性能を試験したところ、約50フェムト秒以下程度の超高速構造変化が光励起で起きると予測されているシリコン単結晶で、実際に構造変化が予測通りの時間スケールで起きていることが確認されたという。

 今後より短い電子線パルスの発生を目指し、光誘起相変化材料の研究を加速させたいとしている。