東京湾沖合の海底火山の活動履歴を解明―溶岩中の水分濃度から新たな噴火年代測定法を開発:海洋研究開発機構/国立科学博物館
(2022年6月29日発表)
東京湾の入り口から約60km南にある水深の浅い海底火山、大室ダシの位置。(提供:海洋研究開発機構)
(国)海洋研究開発機構(JAMSTEC)のアイオナ マッキントッシュ研究員と、(独)国立科学博物館の谷健一郎研究主幹らの研究グループは6月29日、伊豆大島南方にある「大室(おおむろ)ダシ」と呼ばれる海底火山が1万3,500年前に噴火していたことを確認したと発表した。海底溶岩に含まれる水の濃度と長期的な海面の高さ(海水準)の変動とを比較する新たな研究手法によって噴火年代を推定した。日本近海の水深の浅い活火山の活動履歴解明などに役立つとみられる。
「大室ダシ」は海底火山の名称で、東京湾の入り口から南西に60Kmの海面下にあり、伊豆大島と利島に隣接する。火山の山頂は海面下120mで、中央には「大室海穴」と呼ばれる火口がある。これまでに熱水噴出孔が確認されているものの、過去の火山活動はよく分からなかった。
研究グループは、伊豆大島と利島の火山灰層に含まれる軽石と、大室ダシから採取した火山岩の化学組成を比較。一致するものがあったことから、軽石と火山岩は大室ダシ海底火山に由来するとした。
放射性炭素年代測定法によって、大室ダシは1万3,500年前に爆発的噴火を起こしていたが、伊豆大島や利島までこの火山灰や軽石が堆積していたことが確認された。
一方、比較的年代の若い海底火山の溶岩や軽石では噴出年代を決めることが難しかった。そこで研究グループは、火山岩に含まれる水の量から推定する新たな方法を開発した。
海底で噴出した溶岩中の水の濃度は、その時の水圧に応じて変化するため、水の濃度から溶岩の噴出時の水深が推定できる。大室ダシの海底で採取した2つの溶岩をこの方法で分析したところ、噴出時の推定水深は実際に採取した時の水深より浅かった。この見かけの水深の差は、現在より海面が低かった時代に溶岩が噴出したことで説明ができる。
海面の高さ(海水準)は時代と共に変化し、海水準変動曲線としてまとめられている。例えば、最終氷河極大期(約2万年前)には海水準は現在より約120m低く、それ以降は海水準が上昇し、約7,000年前に現在とほぼ同じ水準に達した。この海水準変動曲線と照らし合わせ、2個の溶岩のうち1つは約1万4,000年前、もう1つは約7,000年前から1万年前に噴出したことが分かった。
また海底で採取した軽石でも同様の分析を実施した。軽石は水中を動くため、どの程度まで上昇したかを記録している。一部の軽石では、ほとんど水が抜けていたことから、爆発的な噴火によって海面近くか、あるいは空中まで吹き上げられたと考えられる。
大室ダシは1万年以内にも海底噴火を起こしたことが分ってきた。また熱水噴出孔の存在など現在も活発な活動をしており、今後、大室ダシの火山活動が海上や近隣の島々にも災害をもたらす可能性があると注目している。