植物園と野外のハナアブの花粉輸送ネットワークを解明―外来植物が、保全植物に影響を与えるため外部の環境管理も:国立科学博物館ほか
(2022年7月6日発表)
(独)国立科学博物館の田中 法生(たなか のりお)研究主幹、堀内 勇寿(ほりうち ゆうじゅ)博士(当時、筑波大学生および国立博物館特別研究生)と筑波大学生命環境系の上條 隆志(かみじょう たかし)教授は7月6日、ハナアブ類による国立科学博物館 筑波実験植物園内の花粉輸送ネットワークを解明したと発表した。外来植物セイタカアワダチソウやセンダングサ類が、ハナアブ類などの送粉動物によって、園内植物の繁殖に影響を与える可能性が示された。保全植物の繁殖には、植物園周辺の環境管理も十分考慮することが重要だとしている。
植物が花の蜜や匂いなどで虫たちを引き寄せ、受粉によって遺伝子を拡散させることはよく知られている。植物園はその花資源の豊富さ、都市域に設置される立地的な特性から、2次的な生物の生息場として都市緑地の機能ともなるポリネーターガーデン(送粉生物を保全するための植栽地)として機能すると考えられる。そのため、植物園は植物の適切な保全等を行うため、植物と送粉者のネットワークを把握する必要がある。
植物園は、植物と送粉者の双方の保全にとって有効な場であるが、客観的に双方の関係をモニタリングする方法が確立されていない。今回研究グループは、筑波実験植物園がポリネーターガーデンとしてどのような役割を果たしているか、ハナアブを使って調べた。
ハナアブは、外見はハチに似た昆虫だが、人を刺すことはない。個体数が多く、移動性が高いため、広範な花を訪問し、異種花粉を運んでおり、モニタリングに適した特性を持つ。
研究では植物園に生息するハナアブを捕獲し、付着した花粉種ごとに花粉のDNAを1粒ずつ抽出して塩基配列を調べた。これをデータベースと照らし合わせ、植物園内の開花植物を考慮しながら花粉の植物種を決定。こうして園内の花粉輸送ネットワークや送粉パターンを解明した。
すると、ハナアブの体表から116分類群の種の花粉が検出された。ところが植物園外の2種の外来植物(セイタカアワダチソウとセンダングサ)はハナアブに最も多く付着しており、園内の中心部ほど多かった。つまり、園外の外来植物が園内の保全植物に花粉輸送を通じて、繁殖上の問題を引き起こす可能性があることが分かった。
一方でハナアブの移動経路が、植物園の中心の開放域に集中していることや送粉距離が短くなることから、管理を工夫することによって保全植物間の送粉をコントロールできる可能性もある。
外来種は在来種の生育環境を圧迫し、在来種との交雑を起こすなど、多くの問題が報告されている。
今回の研究で、植物園外の外来種が園内の花粉輸送ネットワークへの影響が大きい可能性があることが確かめられた。外来種問題の新たな課題であり、警鐘を鳴らす必要があるという。
植物園や公園、緑地は都市環境の中で、送粉生物の活動を支えるための貴重な機能をもっている。国立科学博物館は、今後、皇居や附属自然教育園を含めた都市緑地の機能評価研究を進め、その重要性をさらに解明することにしている。
することによって保全植物間の送粉をコントロールできる可能性もある。
外来種は在来種の生育環境を圧迫し、交雑を増やすなど、多くの問題が報告されている。
今回の研究で、植物園外の外来種が園内の花粉輸送ネットワークへの影響が大きい可能性があることが確かめられた。外来種問題の新たな課題であり、積極的に警鐘を鳴らす必要があるという。
植物園や公園、緑地は都市環境の中で、送粉生物の活動を支えるための貴重な機能をもっている。国立科学博物館は、今後、皇居や附属自然教育園を含めた都市緑地の機能評価研究を進め、その重要性をさらに解明することにしている。
植物園と野外のハナアブの花粉輸送ネットワークを解明 (提供:国立科学博物館)