海底火山大噴火で生じた軽石漂着の影響を調査―沖縄県北部域沿岸の変化調べる:北里大学/産業技術総合研究所
(2022年7月19日発表)
北里大学と(国)産業技術総合研究所は7月19日、共同で小笠原諸島の海底火山大噴火で生じた大量の軽石が沖縄県北部沿岸域にどんな影響を与えたかをまとめた調査報告を発表した。海底火山の爆発で生じた大量の軽石が沿岸の海洋生物に与える影響についての研究報告は国際的にもこれが初めてといい、同日英国の学術雑誌に掲載された。
日本は世界でも有数の火山大国。そのおよそ3分の1は海底に在り、その一つ東京の南約1,300km、南硫黄島の近くに位置する海底火山「福徳岡ノ場(ふくとくおかのば)」が昨年の8月大噴火を起こし、海水で急激に冷された溶岩から水に浮く大量の軽石が発生した。こうした海底爆発で生じた軽石は、大きな筏(いかだ:ラフト)のような形をした集団となって海を漂うことから、海外ではそれを「軽石ラフト」と呼んでいる。
調査報告は、福徳岡ノ場の大噴火で発生した軽石が1,300km余りの距離を2カ月間かけて漂流後、南西諸島に次々と漂着し、中でも沖縄県北部への漂着量が多かったことから、北部沿岸を調査地に選んで軽石が大量漂着した直後の海岸と河川を含む沿岸域の生物に及ぼした影響を調べた。
軽石ラフトが生態系に及ぼす影響についての研究は海外で盛んに行われている。これまでの研究では、軽石ラフトが表面に大量の生物を付着させて数千km以上にも及ぶ長い距離を移動することが知られ、多様な付着生物の分散を行っていると考えられている。
ところが、今回の福徳岡ノ場の軽石では、その生物付着が起きておらず、生物付着が進んでいない状態で沖縄周辺に漂着していたことを突き止めた。
そして、その原因を調査報告は、軽石ラフトが海底火山から南西諸島まで移動した際にその漂流した軌道上に大きな島が存在しなかったため沿岸に生息する生物が軽石の表面に付着できなかったからではないかと推測している。
しかし、沖縄に漂流してきた軽石は、魚類の生育に大きな影響を及ぼしていた。沖縄北部にある辺土名(へんとな)漁港の生け簀(いけす)では、養殖中のサバの仲間グルクマが小さな軽石を飲み込み腸内にそれが詰まってしまい大量死を引き起こし、養殖業に大きな被害が生じていたことが分かった。
南西諸島の沿岸を覆っていた軽石は、すでに少なくなっており、海岸や湾内に少量だけ残っている状況に戻っている。