中国の運輸部門の脱炭素化への道筋を試算―バランスの取れた低炭素交通政策の導入で最大81%削減可能:広島大学/国立環境研究所
(2022年8月23日発表)
広島大学大学院の張 潤森(ちょう じゅんしん)助教は(国)国立環境研究所の花岡達也室長らと共同で、中国のカーボンニュートラルに向けた運輸部門の脱炭素化のシナリオを検討し、大幅な温室効果ガス排出削減の可能性を掴んだと、8月23日発表した。バランスの取れた低炭素交通政策が必要で、2060年までに運輸部門のCO2排出量を最大81%削減できると推計した。
中国のCO2排出量は全世界の約3割を占め、なおも増え続けている。中国政府は2030年をピークに排出量を削減し、2060年までにカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量と吸収量の均衡)の実現を目指している。そのためには全ての部門での対策強化が急務。中でも運輸部門のCO2削減が実現できるかどうかが鍵となっていた。
これまでの脱炭素化の中長期シナリオでは、国全体を網羅した分析手法が主流で、これでは解析の目が荒くなり、地域別の都市構造やインフラ整備、交通行動などの特徴が活かせなかった。
そこで土木計画、交通工学で主流となっている分析手法を使い、「エネルギーシステム工学」と「土木計画・交通計画」の方法論などを統合し、運輸部門の中長期シナリオの研究に取り組んだ。
中国31省を対象に交通モデルとエネルギーシステムモデルを組み合わせた統合評価の枠組みを開発し、将来のエネルギー消費構造や温室効果ガス削減経路を分析した。
「ASI分析フレームワーク」として以下の3つの対策を軸にした。都市構造に見合った規制や自動車利用者への課金によって輸送量を抑制する「回避」対策。乗用車から公共交通機関の利用に切り替える「転換」対策。電気自動車やバイオ燃料の普及、内燃機関車の段階的廃止の「改善」対策。
これに、「技術手段」「規制手段」「情報手段」「価格手段」を組み合わせた合計12種類の将来シナリオを設定し、各シナリオでの交通運輸パターン、エネルギー消費構造や消費量、温室効果ガス排出削減経路、緩和コストへの影響を詳細に調べた。
各種対策の相乗効果(シナジー)を最大化し、交換効果(トレードオフ)を最小化する望ましい組み合わせを探した。その結果、2015-2060年期間の各種シナリオのCO2排出経路では、「改善対策」「規制手段」を組み合わせた削減効果が最も多く、「改善対策」「規制手段」が小さいことが分かった。
また同じ期間のベースラインと比べると、CO2累積排出削減率は、回避対策のみ(3-12%)、転換対策のみ(7-22%)、改善対策のみ(3-44%)と、対策手段によって削減効果が大きく異なった。
全ての対策の組み合わせの中から、中国のカーボンニュートラル目標の実現に向けた分析では、CO2排出量は2030年までに58%削減、2060年までに最大で81%削減が可能と分かった。
回避、転換、改善の全ての対策と手段を取り込んだ低炭素交通政策パッケージによって、運輸部門の大幅な脱炭素化が可能であり、目標の達成に貢献できるとみている。
現実には、交通計画と気候変動の研究の間に距離があるため、交通計画の政策決定者、エネルギー計画の政策立案者、気候変動の専門家の間での緊密な協力が必要としている。
この統合評価法は、他の国や地域でも、世界規模の気候変動緩和策として効果や影響評価へ使用できると期待される。