パウリの排他原理による斥力(せきりょく)の起源を実験で検証―核子をつなぐ核力(かくりょく)に現れる斥力の実態に光:東北大学/京都大学/高エネルギー加速器研究機構ほか
(2022年9月5日発表)
東北大学、京都大学、高エネルギー加速器研究機構(KEK)、J-PARCセンターなどから成る国際共同研究グループは9月5日、湯川 秀樹博士が提唱した核力をめぐる近年の理論研究を検証する実験成果を得たと発表した。物質が安定して存在できる理由の理解促進が期待されるという。
陽子・中性子を結びつけて原子核を構成している強い力の核力(かくりょく)は、核子同士を単に引きつけるだけでなく、反発ももたらすこと、そして、引力と斥力(せきりょく)のバランスのおかげで原子核は安定に存在していることが近年知られている。
この核力は、核子間の距離によって引力になるか斥力になるかの違いが生じ、2核子が重ならない程度に離れた1~2fm(フェムメートル、1fmは1,000兆分の1m)では強い引力として、2核子が重なる程度の1fm以下の近距離では強い斥力として働く。
では、斥力が生じるのはどういう理由によるのか?その原因の一つとして考えられているのがパウリの排他原理である。
陽子・中性子は素粒子のクォークが3つ集まってできている。量子力学の基本的な原理であるパウリの排他原理によると、同じ状態のクォークは同じ場所に存在することはできない。陽子・中性子間で働く核力は短距離では斥力として現れるが、その原因の一つはこのパウリの原理ではないか、という説である。ただ、これまで実験的な検証はなされていなかった。
研究グループは今回、クォークの種類を変化させた新規な粒子と陽子とを散乱させ、クォークのパウリ原理で禁止される状態を作り出し、革新的な手法を用いて散乱現象を高精度に測定、クォークのパウリ原理による斥力の強さを決定することに成功した。
これはパウリ原理による斥力の起源を検証し、その芯の堅さを実測したことに相当するという。
今回斥力の強さの決定に成功したことで、斥力の理解が進むとともに、拡張された核力の短距離での性質がクォークに基づいて統一的に解明されることが期待されるとしている。